起業家のように考え行動せよ
変化には、チャンスと難題の両方がつきものである。今求められるのはスタートアップ的な発想と具体的なスキルだ。どんなスタイルで仕事をしていても、新しい機会をつかみ、今日のような一筋縄ではいかない仕事環境で難題に対処しようとするなら、「自分のキャリア」をスタートアップと同じように舵取りしているつもりで発想し、行動する必要がある。
スタートアップの創業者たちは、大躍進のチャンスを積極的に探したり、生み出したりする。当然チャンスには相応のリスクを伴うが、そうしたリスクに機敏に対処する。難しい決断を舵取りするためのビジネス上の知恵や情報を、人脈を活かして探り出す。自分のキャリアを舵取りするために、こうしたスタートアップの戦略を取り入れる必要がある。
起業家にとって「完成した」は禁句である。私たちはみんな、いわば未完成品だ。常に学び、行動し、人間としての幅を広げ、成長するための機会に巡り合う。自分の人生を「永遠のベータ版」と位置付けておくことが重要だ。但し、「永遠のベータ版」という発想を持っただけでは、キャリアの転換は成し遂げられない。自分の人生を切り拓くには、思慮深い戦略に従う必要がある。
スタートアップ的人生戦略に必要なもの
①強みを培う
仕事での方向性を決める時に、最も重要なものは「強み」だ。成功したスタートアップは他社との違いが際立つ工夫をしている。記憶に残るくらい他社と違う製品でもない限り、誰からも注目されない。成長するスタートアップは「お客様が他社ではなく当社の製品を買ってくださる理由」を説明できる。
人材市場で他と差別化できる進路を望むなら、第一歩として「他の誰でもなく自分が採用される理由」を語れるようにならなくてはいけない。市場が無視できなくなるような、希少かつ価値のある組み合わせが鍵だ。強みは次の3つの噛み合わせによって決まる。
- 資産:知識や情報、経験、人脈、スキル、評判など
- 大志:将来の望み、アイデア、目標、ビジョンなど
- 市場環境:上司、同僚、顧客、部下、投資家などのニーズ
優れたキャリアプランは、これら3つの相互作用から生まれる。
②「変化への適応」をプランニングする
変化する環境で人生を切り拓くには「プランを立てて従う」ことと「しなやかさを失わない」ことの両方が必要である。起業家も、不合理にも2つに1つを迫られることが多い。「自分のビジョンの実現に向けて、休むことなく初志貫徹しなくてはいけない」「市場の声をもとに事業に変更を加える心構えを常に持っているべきだ」といった相反する意見が色々なところから届く。波に乗るスタートアップは両方を実践している。たった1つの秀逸なプランだけを実行する企業など一握りに過ぎない。大抵は立ち止まって進むを繰り返し、瀕死の経験を何度か重ね、かなりの程度まで環境に適応する。
ABZプランニングは、試行錯誤をよしとする適応性の高い手法だ。
- プランA:現状。やってみないとわからない。
- プランB:目標や目的、ルートが変わった場合に採用するもの。学びながら方向転換する。
- プランZ:いざという時の備え。
プランZは「実家に転がり込んで職探しをする」「明日からウーバーイーツの配達員をする」とか、やり方は何でもある。こうした備えがあれば、プランAやプランBに不透明さやリスクがあっても、受け入れて挑戦することができる。
③つながりをつくる
キャリアを築く上では、一緒に取り組む誰かが必要である。起業家の間では「有能なチームを築くことが何よりも重要だ」と意見が一致している。起業家が休みなく逸材探しに努めているのと同じく、人生というスタートアップを助け合える人とのつながりに力を入れるとよい。
キャリアにおける重要な転機は、しばしば自分と他人のつながりによってもたらされる。本物のつながりを築くには、次の2つが必要になる。
- 相手の視点でものを考える姿勢
- 自分が相手から何を得るかではなく、相手をどう助け、力を合わせられるかを考えること
④偶然の幸運を戦略的に引き寄せる
起業家が世の中を変えるような成功を収めるには、冒険の早い段階で出会う転機につながる貴重なチャンスをものにしなければならない。私たちの人生でも全く同じことが言える。だが「棚ボタ」で絶好のチャンスが降ってくるわけではない。プロジェクト、出会い、経験、思いがけない幸運は、積極的に「取りに行く」ことが必要だ。
セレンディピティとは、チャンスが来ないか日頃から注意を払い、「ここぞ」という時にしっかりチャンスをものにすることを指す。セレンディピティはつくり育てなければならないのだ。チャンスを探そうとするには、好奇心を発揮しなくてはならない。大切なのは、貴重な何かと出会う可能性をいかに高めるかである。新しい可能性に向けて常に心を開き、動き回ることが偶然のチャンスを引き寄せる。