ドンキ・ホーテの逆張り経営
ドンキを運営するPPIHは、2021年6月に創業から32期連続増収を達成。2021年12月時点で、国内594店舗、海外92店鋪を展開している。コロナ禍にあっても、ほぼ毎月2店舗ずつのペースで新規出店が増えている。
ドンキはその異質な経営手法で、小売業界の異端児とされてきた。商品棚を高くして、そこに隙間なく商品を並べる圧縮陳列という陳列方法は、その最たる例である。ドンキは、通常のチェーンストアに対する「逆張り」をその経営の特徴としている。
ドンキにはなぜペンギンが置かれているのか
チェーンストアは普通、同じような外観をしている。これは運営形態や外観・内装などを同じにすれば、1店舗ごとの経営コストが抑えられるからである。この経済的な仕組みが、どの街でも似たり寄ったりだと批判される風景を作り出していく。
ドンキも、それらの店鋪と同じチェーンストアである。ドンキの外観を考える時に、注目したいのが、ドンキのマスコットキャラクターである「ドンペン」である。ドンペンが特徴的なのは、店舗の飾りとして、多くのドンキに置かれていることである。多くのドンキには「ドン・キホーテ」と書かれた目立つ看板があるので、ドンペンのような飾りは本当はなくてもいいはずである。
ドンキにはなぜドンペンが置かれているのか。その理由は2つ考えられる。
①目立ちたいという欲望
②内と外を融和させる(仮説)
ドンキが置かれている周りの環境(=外)と、ドンキの外観(=内)は渾然一体としている。どんな建物であっても、ドンペンのオブジェと看板をつけることさえできればドンキになれる。
このような装飾を採用している理由は、ドンキの出店戦略にある。ドンキは、出店コストを抑えるために「居抜き戦略」を採用している場合が多い。居抜き戦略とは、元々何かの店舗があった場所をそのまま別の店として利活用する経営戦略のことである。
ドンキは「居抜き」によって都内の普通のビルの中にその店舗を構えることも多い。そこにドンキはドンペンを張り付ける。ここにドンキの特徴がある。
周辺の土地によってドンキの装飾の派手さは変化している。ドンキの外観は、歓楽街や派手な建物に囲まれた場所ほど派手で、閑静な住宅街になるにつれて派手さは薄い。ドンキは、通常のチェーンストアが選ばないような様々な土地に出店するという特徴がある。様々な場所に出店するからこそ、その場所でなんとか営業するために、周りの景観や地域住民の意向なども踏まえてその外観を柔軟に変化させる。こうした外観の変化の中で、ドンペンは、ドンキらしさを生み、内と外を融合させる。
ドンキの持つ多様性
ドンキのテーマソング「ミラクルショッピング」の歌詞を読み解くと、ドンキの特徴が明らかになる。最初に注目するのは「ボリューム満点 激安ジャングル」というフレーズが繰り返され、店名の次に多く出てくること。
ドンキの店内の通路は非常に複雑で「ジャングル」のようになっている。その複雑さは、衝動買いを誘発するための合理的な仕組みから生まれている。その仕組みを徹底させる中で、より多くの品物を並べる「圧縮陳列」に辿り着き、それらによって店舗がさらに複雑になっていく。
ドンキが持つ「複雑さ」とは、複雑であることを目的としてそうなったのではなく、むしろ効率よく儲けるための仕組みを徹底させたところに自然と生まれてきたものである。
「ジャングルのような店内」といった時、もう1つ有名なチェーンストアが思い浮かぶ。それが複合型書店「ヴィレッジヴァンガード」である。ドンキとヴィレヴァンの類似点は次の4つ。
- 店内POPの重視
- 「よい」よりも「おもしろさ」を追求する
- B級・サブ意識の強さ
- 経営方針の一任(権限委譲)
ドンキとヴィレヴァンは非常に似ているが、コンセプトに大きな違いがある。ヴィレヴァンでは本だけを売っているのではなく、むしろ本にプラスアルファしてついてくる「ストーリー」に重きを置いている。このイメージを重要視するところが、ドンキと異なる。ドンキはイメージというよりも利益追求を重要視している。
経営方法を各店舗の店長に任せる権限委譲のあり方も大きく異なる。ヴィレヴァンで働く人の多くが「ヴィレヴァン好き」であり、権限委譲をしても各店舗のイメージは変わることがない。一方、ドンキの採用は「権限委譲、実力主義」としているため、「儲けたい!」という欲望で集まってきた多様な人々へ権限委譲が行われる。
ドンキではこうした権限委譲によって、店舗を複雑で多様なものにしている。既存のチェーンストアに見られる陳列商品の画一性が打破されることになる。そして、この権限委譲があるからこそ、地域住民のニーズは商品の選定に著しく影響を与える。地域のイメージや、表面上のご当地感だけでなく、商品陳列にまでその地域の多様性が反映される。