統計リテラシーが必要である
データはどの部分に注目するかによって、分析結果が正反対になる。重要なのは、どれだけ多くのデータを分析するかではなく、どのように分析するかだ。データ分析は厄介な仕事で、常に正しい答えを出せる人などいない。なぜなら、完全な情報は存在しないからだ。
ビッグデータは基本的に、因果関係について何かを語るものではない。データの洪水が、隠れていた因果関係をさらけ出すというのは、ありがちな誤解だ。例えば、ウェブ上のログデータは混沌とした世界だ。あるサイトのトラフィックを2つの業者が解析すれば、導き出された数字が一致する事はまず考えられない。その差は20〜30%に及ぶ時もある。
ビッグデータをもてはやす人々は、データが多いほど的確な分析が増えると思いがちだ。しかし、より多くの人がより多くの分析をより迅速に行えば、より多くの理論や視点が生まれ、複雑さや矛盾や混乱が増えて、明晰さや意見の一致や信頼度が薄れる。少なくとも私たちは賢い消費者にならなければならない。そのためには統計のリテラシー「ナンバーセンス」が必要である。
グルーポンの提携店は儲かるのか
グルーポンという企業の仕事は、人々にメールを送信して、割引クーポンを売り込む事だ。様々な商品やサービスのほとんどが50%以上、値引きされる。グルーポンは割引クーポンを販売し、店は料理などのサービスを割引価格で提供し、客はグルーポンから購入したクーポンで店に支払い、グルーポンは所定の取り分を差し引いて清算する。顧客のターゲットを絞った広告を出し、営業担当が業者を訪ねてクーポンの契約を取り付け、ライバル会社を真似して迅速に拡大する。
グルーポンを発行する店は、どのように利益を上げるのか。
一般の利用客:会計金額$100 – コスト$33 = 利益$67
クーポンの客:会計金額$100 – コスト$33 – $47.5 = 利益$19.5
クーポンを利用した場合の差額$47.5は、$12.5がグルーポンに、$35は客の懐に入る。クーポンの常連客は$47.5の損失を店に与えるが、新規の客の増分利益$19.5で埋め合わせる事ができる。クーポンの効果で常連客1人につき新規の客が最低2.5人来店すると、収支が釣り合う。言い換えれば、クーポン利用者の70%が新規の客でないと採算は取れない。
常連客はクーポンがなくても店に来るだろうが、新規の客はクーポンがなければ来ない。新規の客は、利幅は小さいけれど増分利益をもたらすのに対し、常連客(正規料金との差)は損失をもたらす。皮肉な事に、常連客の方がクーポンを愛用する。一方、新規の客は、クーポンを使った店を再び訪れる確率はかなり低い。店としては、できるだけ多くの新規の客を獲得しつつ、忠実な常連客はクーポンの存在に気が付かないで欲しいところだが、これを両立させる事は難しい。
クーポンの利益性は、新規の客と常連客という2つの顧客セグメントのバランスにかかっている。適切なバランスになる店は採算が取れるが、グルーポンがすべての店に幸せをもたらす訳ではない。開業したばかりなどで常連客が少ない店は、勝ち組になる確率が高い。さらにリピーターが見込める店は、さらに成功する確率が高い。
グルーポン方式の販促は、新規の客と常連客のバランスをうまく取れる店にとっては意味がある。但し、1つ確かな事がある。グルーポンは無料の宣伝ではない。常連客を無視するなら、無料の宣伝と言えるかもしれないが。
グルーポンのビジネスモデルを理解する事は、創業からIPOまで3年間、一度も黒字を計上していないという事実よりも厄介な問題だ。グルーポンのウィン・ウィン・ウィンの公式には落とし穴がある。提携店はすべてが得をする訳ではない。クーポンを利用する客が増えるほど、クーポンがない正規料金の場合に比べて、店の総収入が減るのだ。