食べられない多様性
日本の食文化は実に多様で豊かである。一方で、日本人は、食文化は国や人それぞれ、感じ方も多種多様だということを理解すべきである。そして「そこに何が入っているか」に敏感になるべきである。世界の食文化には「様々な禁忌がある」という多面性に目を向けなければならない。
「食べられない」理由には、大きく4つの分類がある。
①文化・嗜好によるもの
個人レベルでの「食べられない」が存在する。食感や味、あるいはトラウマなど「食べられない」原因は様々にある。文化による食の差異では、日本の鯨食や中国等の犬食、昆虫食などがある。
②宗教上の理由
宗教によって「食べられない」ものを定めていることがある。その思想の根拠は無用な殺生を避けるということであったり、特定の動物が神の化身であったり、穢れであったりと様々である。
・ハラール
代表的な食品は、豚肉、牙を持つ動物(犬など)、血液、酒などのアルコールが含まれているもの、そして、イスラムの方に基づかない方法で処理された動物の肉などである。
ハラームの代表例としてよく知られる豚とアルコールは、これらを使わないと結構食卓に影響が出る。ハムやソーセージの他、ラード(脂肪)が使われているコーヒークリームやアイスクリーム、乳化剤、香味料、スープ、調味料、ゼラチン、ヨーグルト、ゼリーなども要注意である。日本食で危ういのは、しょう油やみりんで、アルコールが添加されているものはNGである。豚肉以外の肉類についても、ムスリムの手によって、メッカの方角に向かい、アッラーの名を唱えながら屠畜されたものでなければならない。
・ヒンドゥー
牛を崇拝しているため牛肉は食べない。また、不殺生を戒律とするため基本的には肉を食べない。徹底する人の場合、球根も生命だと捉え、玉ねぎやニンニクなども拒む。
・仏教
仏教も基本的には肉食が禁止されている。こうした禁忌は、今の日本ではほとんど消失しているが、台湾などでは今も残っており、彼らは肉食を避けるだけでなく、五葷(ネギ、ニラ、ラッキョウ、ニンニク、アサツキ)を摂らない。
③ポリシー・思想に基づくもの
宗教的戒律とは別に、ポリシーや思想に基づき、食を制限する人もいる。
・ベジタリアン
宗教上によるもの以外に、動物愛護の信条によるもの、倫理観に基づくもの、健康志向、環境破壊への問題意識、美学などの理由がある。ベジタリアン比率が高い11ヶ国からの訪日客は全訪日客の1/4に相当する732万人になる。この内ベジタリアンは78万人いるものと推定される。
ベジタリアンに対しては、出汁で煮干しやかつお節を使えばNGである。干し椎茸や昆布などから出汁を取るように、細部まで気を配らなければならない。
・ヴィーガン
ベジタリアンの中で、特に徹底しているのがヴィーガンである。ヴィーガンは卵や乳製品、ハチミツといった動物由来のものを一切摂らない。ヴィーガンのタンパク質として人気があるのは豆類である。昨今はこのジャンルでユニークな食材が続々と登場しており、大豆が主原料で、肉のような食感を得られる代替肉は人気となっている。ヴィーガンに人気のある日本産の食品では、こんにゃくを使った「サシミコンニャク」や「ゼンパスタ」がヘルシー食材として、特に欧州で知られている。
④体質・体調による制限
体質によって特定の食物を摂れない人もいる。代表的なのはアレルギー。最近知られるようになったグルテンフリーもその一種と言える。世界でもアレルギー患者は増加しており、アメリカでは1500万人、イギリスでは500万人、オーストラリアでは250万人に上るとも言われている。
食のダイバーシティを進めよ
食の禁忌がない雑食の日本人は世界では少数派であるばかりか、多数派の人たちへの配慮が足りていない。とりわけ、旅先の楽しみとして重要な「食」が彼らに対して閉ざされたものであったなら、「日本になど行く必要はない」と対応されても仕方ない。
日本が世界と積極的に交わっていくためには、「食」は絶対に欠かすことのできないキーポイントである。フードダイバーシティを進めれば進めるほど、日本は「美食の国」として存在感を高められる。