人はなぜ物を愛するのか 「お気に入り」を生み出す心の仕組み

発刊
2024年12月17日
ページ数
352ページ
読了目安
570分
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人がモノを愛するメカニズム
人類の進化の歴史において、「モノ」を愛するというメカニズムは新しい。
生存という観点では、あまり関係がなさそうな「モノ」を、人はなぜ愛するのか。

人を愛するように、モノを愛する脳の仕組みが解説されている一冊です。
人間の心理やマーケティングなどの理解に役立ちます。

モノへの愛

モノへの愛は、人への愛と違う。モノへの愛は物や活動との関係によって形づくられるからだ。人への愛は確固たる欲求であるのに対し、モノへの愛はそのモノが「なければならぬ」というよりは「あってうれしい」といった程度の思いである。これはおそらく、人類が進化してきた過程の大半において、暮らしの中でモノが重大な役割を担うことがなかったからだろう。

 

私たちの脳はモノよりも人を気に掛けるように進化した。その結果、脳は人とモノを別々のカテゴリーへと自動的に分類し、しばしば人とモノについて別の考え方をする。特にモノについては冷静で実利的な考え方をするのに対し、人については熱烈で感情的な考え方をし、時には愛を抱いたりする。

ところが、脳はモノに関するデフォルトの考え方を無視して、普通は人について考える時のやり方でモノについて考えるようになる状況がある。これらの状況を「リレーションシップ・ウォーマー(関係を温めるもの)」と呼ぶ。これがあることによって、人とモノとの関係は本来、冷たく実利的であるのに、感情的な温かさが生まれる。

 

リレーションシップ・ウォーマー

脳は、3種類のリレーションシップ・ウォーマーの働きによって、普通は人について用いる考え方をモノについても用いるようになる。

 

①擬人化

擬人化思考とは、モノが人でないことを意識的なレベルでは理解していても、脳はそれが人であるかのように反応することを意味する。通常、擬人化思考が生じるのは、モノが人に似た姿をしていたり、人のように話したり、振る舞ったりすることで「人だと思わせる」場合だ。脳はこうした偽りに騙される。モノの擬人化が起きると、そのモノの捉え方は物と人の中間になりやすい。そして、私たちが人について抱くポジティブな考えや感情の多くが、擬人化されたモノにも向けられるようになる。

私たちがモノを愛せるのは、脳が元々比喩を使って物事を考えるからである。だから、私たちとモノとのつながりを愛と見なすには、人との関係と全く同じでなくとも類似していればよい。

 

②ピープル・コネクター(人を結びつけるもの)

私たちは普通、モノとの関係を<人-モノ>の関係だと思う。しかし、愛するモノとの関係と見ると、そこには大抵<人-モノ-人>の大切なつながりが存在する。実際、モノとの関係の多くは、実は人との関係が姿を変えたものだ。<人-モノ-人>の鎖の中心に位置する物または活動を「ピープル・コネクター」と呼ぶ。モノには人と人を結びつける力があり、「特別な所有物」が特的に感じられるのは、大抵はその力のおかげである。

モノがピープル・コネクターとして機能すると、そのモノに対する気持ちが変化する。ピープル・コネクターは、主に3つの仕組みで作用する。

  1. つながりマーカー(つながりを示すもの):人を特定の個人や大きな集団に属する人たちと結びつける
  2. 集団のアイデンティティ・マーカー:集団への帰属と各自の個性を同時に表現する
  3. 実用的な支援:社会的な関係を築く上で、実用的な支援をしてくれる

 

③自己認識への取り込み

モノを非常に大事な人である「自分」の一部にする。自己には意識に加えて「自己概念」と呼ばれる部分もある。これはアイデンティティやセルフイメージと呼ばれるもので、自分がどんな人間であるかについて抱いている様々な考えのすべてを指す。人やモノは、意識の一部になることはないが、自己概念の一部となることがあり得る。

脳は自動的にモノをカテゴリーに分類する。ここには、自己概念の一部を構成するすべてのもの、例えば自分の体、信念、人生の物語などが含まれる。そして、脳はそれがどれほど強く自己概念と結びついているかで、その安全を気にかける。

何かを自己概念の一部とするためには、脳は時間と労力を費やす必要がある。これを実現させる心理プロセスには様々なモノがある。

  • 愛するモノについて考え、知る
  • 愛するモノを人生の物語の一部にする
  • 物理的に接触する
  • 工具、車、楽器など、直感的にコントロールできる
  • 自分が設計や製作に携わる
  • モノで自分が変わる
  • 心理的な所有感を高める
  • 苦難に満ちた冒険を乗り越える

 

脳が最も頻繁に遂行するタスクの1つは、処理能力不足のせいで対処しきれない情報を、ふるい分けて排除することだ。脳は様々な分類メカニズムを使い、入ってくる情報を対処可能なレベルまで削減する。

そうした分類メカニズムの仕事の1つは、人に関する情報をモノに関する情報から選り分けて、人について考えるために進化した知的能力が、日々目の前を行き交う無数のモノについて逐一考えてダウンしてしまわないようにすることだ。3つのリレーションシップ・ウォーマーは、この分類メカニズムを騙し、特定のモノをあたかも人であるかのように扱わせる。

 

参考文献・紹介書籍