音楽利用層9つのタイプ
歴史をたどると、各時代におけるヒットの方程式は、デバイスと情報源に紐づく生活者の「音楽消費行動」の変化にどれだけ順応できるかが重要だということがわかる。令和の時代には、生活者が情報や流行を作り、拡散し、消費するようになったため、彼、彼女らの消費行動を深く理解することが重要になっている。
「新しいアーティストや楽曲、イベントを知るきっかけになった情報」が似ている人たちをグルーピングすると、音楽利用層は9つのクラスターに分類される。
①強火令和アイドル推し層
JポップアイドルやKポップ系アイドルを推している層。アーティストの公式情報やSNSなど幅広く情報を収集。フェスやライブのようなリアルイベントやCD・DVDといったパッケージなど支出先も多く、その金額も大きい。
②Jポップアイドル推し層
Jポップやアイドルを好み、特に坂道グループを推す層。アーティストやレコード会社の公式サイトをチェックしつつ、Yahooや音楽専門誌など自ら積極的に情報を取得。限定版を事前に予約したりライブを楽しんだりと消費も積極的。
③令和トレンドセッター層
XやInstagramなどSNSをメインに情報を収集し、SNSで話題になっているかを重視して音楽に触れる層。フェスやライブなどのイベントに参加する機会も多い。
④音楽ディープダイバー層
作曲家や音楽プロデューサーなどの制作側にも目を向けるコアな音楽好き層。マスメディア中心に情報を収集。歌謡曲やシティポップなど昭和に流行した音楽を好む。
⑤音楽で井戸端会議層
既に売れているマスヒットアーティストを押さえる層。友人や家族の評判を重視しており、音楽の情報源も友人や家族。また、コンテンツについて友人と感想を語り合うことも多い。
⑥令和の王道リスナー層
トレンドのアーティストは押さえつつ、以前から好きなアーティストも聴き続けるマジョリティ層。YouTubeやWEBニュースの他、Spotifyなどの配信サービスからテレビ番組まで幅広く情報を収集。メロディや歌唱力など聴くことを重視したリスナーが多い。
⑦ストリーミングチャートザッピング層
Apple Musicで流れてくる人気のあるKポップやJポップを聴く層。歌詞や世界観を重視しており、Official髭男dismやCreepy Nutsなどのアーティストを好む。コンテンツに使う金額を気にしているため、音楽ストリーミングサービスへの支出が多い。
⑧ボカロ&ネット系音楽愛好家層
YouTubeでボカロやVTuber、歌い手などを中心に音楽を聴く層。ボカロの他、アニソンやゲーム音楽を好む。音楽関係の支出は非常に少ない。
⑨昭和音楽愛好家層
平均年齢が最も高く、昔から好きなアーティストを聴き続けており、洋楽を好んで聴く層。Yahoo、テレビから情報を収集。音楽への支出は最も低い。
令和ヒットの方程式
コンテンツが大ヒットする現象には、「作品そのものではない情報」が大きな影響を及ぼしている。「作品そのものではない情報」とは、作品周辺の小ネタ(裏話、出演者のエピソード、制作秘話)やエンディング映像、WEBニュースや作品、有識者による作品の批評や周辺情報、生活者自身が投稿するUGC、SNS等でシェアされる口コミ情報などである。これらを「フィードコンテンツ」と名付ける。
TikTokなどのショート動画プラットフォームでフィードコンテンツを手軽に生成できるようになった。そこでは流行りの音楽を使った「踊ってみた」「歌ってみた」「演奏してみた」動画は毎日のように見ることができる。特に推し活を行なっているクラスターは、アーティストの活動を体験し、その喜怒哀楽を自身の得意なメディアやプラットフォームで表現するフィードを積極的に生成している。
ヒットを生み出す上では、関係性を作りたいファンの情報行動や、該当するファンが利用するプラットフォームの特性を理解し、後に推し活層が自発的にフィードコンテンツを作りたくなるような情報素材をクラスターの趣味嗜好や口コミに対する衝動・行動を意識して、マッチしやすいものを提供できるかがポイントとなる。
そして、「ファンの感情を動かすフィードコンテンツ」を生み出し、ヒット指標に関連する行動を促す仕掛けを作る。ヒットにつながるものとそうでないものの差は、そのフィードコンテンツを見た後に「実際にCDを買ってみたくなる」「公式アカウントをフォローする」「MVやストリーミングで聴いてみたくなる」「カラオケで歌ってみたくなる」というファンの動機を作り出せているかがポイントとなる。
フィードコンテンツは「文章解説型」「動画解説型」「シズル×ハッシュタグ型」「参加型」の4タイプがあり、これらが生まれることで、クラスターごとにヒットに関連する行動が起こり、国民的人気につながっていく。4タイプの異なるフィードコンテンツが自発的に生まれることが、令和の情報源多様化時代には必要かもしれない。