人本主義とは
「いい会社」とは社員、取引先、お客様、地域社会の住民、株主という企業に関わる人を大切にする経営を実践し、実現していく事でステークホルダーに支援され、持続的に好業績という結果を生み出している会社である。この人を大切にする経営を「人本経営」、人を大切にする志向を優先する事を「人本主義」と形容する。
人本主義とは、信頼を元手に関わる人を大切にする経営活動により、結果として利益が得られ、それをより幸福追求するための手段として永続していくシステムのこと。よって企業は、最も近い人である社員の幸福の極大化を実現させていく事が目的となる。経営は「幸せ軸」に沿って展開されていく。利益の意味が「業績軸」資本主義では目的であるのに対して、「幸せ軸」人本主義では結果・手段と真逆に捉えられる。
「業績軸」資本主義は、出資者、資本家である株主の満足を大本に考えざるを得なくなる。「幸せ軸」人本主義は、近い人から順に満足を高める事が原則になる。
人本経営のプロセス
人本経営の形成過程は、次のようなプロセスとなる。
①経営者が人本経営を志し、日々実践していく
②本気でいい会社づくりをしようとする経営者の背中と心を社員達が感じる
③安心して、いい会社をつくっていくための行動をしていいのだと社員の心に伝播する
④より一層、心ある商品やサービスが形づくられていく
⑤その商品やサービスに触れたお客様が「この会社の表品、サービスは違う」と感動を覚える
⑥リピート客が増えるようになる
⑦口コミが広がり新規顧客が増え始める
⑧会社の空気感、風土が良くなる
⑨その職場の雰囲気に憧れて入社を希望する若者が多く集まる
⑩価値観の合う優秀な人材の採用に困らなくなる
⑪優秀な人材がさらに経営理念を具現化させ幸せ感をもって働くようになる
⑫業績に反映され、さらにいい会社をつくるための手段としての高収益が実現されていく
人本経営が形づくられるために最も重要な事は「いい会社をつくるための行動」と言える。
人手不足を克服するには人本経営しかない
今、人手不足に陥っている企業は、人を大切にする事に親和性を持った平成世代の若者たちに去られている。平成世代は、いい雰囲気のある職場で働き、より自分が役に立てる環境を強く望む。時給の多寡はそれほどインセンティブにならない。人手不足状態を克服するためには、じっくりと腰を据えて「幸せ軸」の人本経営に舵を切る事以外にない。
人口は毎年毎年減っている。人手不足を克服していくためには、新たに人を採用する事よりも、今いる社員に離職されない職場をつくる事を優先して経営改革していく事が求められる。人を大切にする経営は、決して無理な成長を追わない。安定成長、年輪経営である。だから多少採用予定人員に達していなくても、人が辞めなければ人手不足で経営が困難になる事はない。
いい会社になって業績を出すために必要なこと
人本経営が実現できるかどうかはリーダーの本気度で80%決まると言っていい。経営者が「業績軸」だからと諦めるのではなく、自部署で「幸せ軸」の職場づくりを図ること。目先の売上にこだわらない決意を固め、恐れずに実践していく事である。
利益は健全経営をした結果であって追うべきものではない、というのが人本経営の理想の姿である。それを実現するために、まずは利益が出る方向へ経営の舵を切る必要がある。
いい会社になる事を目指していても、業績という結果につなげられない企業はどこに違いがあるのか。いい会社の特長には次の4つが挙げられる。
①経営理念を明文化している
②離職率が低い
③経営理念の共有化、コミュニケーションの円滑化のために朝礼や夕礼に取り組んでいる
④社員のモチベーションを高めるために何でも言える組織風土づくりに取り組んでいる
これらを実践していても業績が出ない会社には、次の特徴が見られた。
・経営理念を明文化していても社員への浸透に関する取り組みを行っていない
・研究開発費がほとんどかけられていない
・教育投資に消極的
・新商品新サービスの開発が少ない
・決裁権限があいまい
・障害者雇用に消極的
・残業時間が極端に長い
売上高経常利益率5%以上の会社には、研究開発費が売上高の2%程度、教育費は1人当たり年間3万円程度計上している会社が多い。
社員を第一に考える
人を大切にする会社を目指すためには社員第一主義である事が求められる。「わが社は社員第一主義です」と宣言できるかどうかが、幸せ軸の経営に向かおうとする多くの経営者がまず超えるべきハードルである。もちろん、社員第一だからといって、お客様をないがしろにしていいわけではない。しかしお客様を幸せにするためには、社員が心から幸せ感をもって仕事をしている事が必須である。