可視化する技術によって進む物流革命
スマート物流サービスの推進により物流・商流のデジタルプラットフォームが今後、大きく強化されていく。実際、スマート物流の推進などが起爆剤となり、物流革命が進み、スマート社会のインフラ構築や、サプライチェーン全体での可視化や最適化が進められていくのは間違いない。
「物流革命」という言葉はSCM(サプライチェーン・マネジメント)の登場以降、しばしば使われてきた。だが、ここにきて、これまで以上のスケールで物流は大きく変わろうとしている。いわば「シン・物流革命」がこれから始まる。
現代物流の大きなトレンドは見える化、すなわち「可視化」である。RFタグを導入して商品情報を管理するのは「どこにどの商品がどれくらいあるかをわかるようにする」という流通在庫の可視化が大きな目的となっている。在庫は多すぎても少なすぎても問題が生じる。そのため適正在庫量を設定し、それに基づいて管理することが重要になる。シン・物流革命では、ビッグデータに裏打ちされ、IoTにより、ロジスティクスの可視化が徹底的に行われる環境ができあがりつつあり、在庫情報の可視化も、より高度に進む道筋が明らかになってくる。
サプライチェーンにおける情報共有という考え方は、IoTやAI、DXと極めて相性がよく、スマートサプライチェーンの基盤構築の大きな原動力になっている。デジタルプラットフォームを活用して、物流情報に販売計画、生産計画などを組み合わせることで、サプライチェーンを可視化し、トータルコストを抑えていくのである。
SCMの重要な概念の1つに全体最適がある。全体最適は部分最適の総和とはならない。この考え方はAIにとって親和性が高い。サプライチェン全体をリアルタイムの数値で見極め、どの領域に何が足りないか、過剰になっている領域はないかといったことを学習し、最適解を求めるといったプロセスはAIの得意とするうところである。
これまで勘と経験に頼ることが多かったロジスティクスの課題は複雑系の課題とも言われてきた。季節や流行の変化などにも適時、対応していく必要があるので、単純な機械化では対応できないと考えられてきた。しかし、このプロセスもマテハン機器や物流現場の作業ロボットなどに機械学習機能を持たせることで貨物取扱量の変化や出荷頻度の変化などにも柔軟に対応できるようになってきている。
考える物流センターへ
スマートサプライチェーンにおける新技術により、IoTデバイスなどにAIを組み込む流れが加速してきている。例えば自動運転による無人トラックなどに先立つ形で無人フォークリフトやAGVの活用が拡大している。機械学習機能を組み込んだ無人フォークリフトやAGVで工場内や倉庫内の運搬作業を行うことで、作業者数を大幅に削減できる。夜間に稼働させることでさらに作業効率を向上させることが可能となる。また、保管エリアに設置して、自動で棚入れ・棚出しを行う自動倉庫もAIの導入でより一層の効率化が可能になる。
さらに近年は物流には欠かせないローラーコンベヤについても技術革新が行われている。コンベヤ上にバーコードの読み取りゲートを設置したり、コンベヤから出荷情報などを入手したりできるシステムも開発されている。また、パレットにアクティブRFタグを装着したスマートパレットの導入により、貨物の位置情報や入出庫情報がリアルタイムで管理できるようになってきている。
こうした流れの中で物流センターは「サプライチェーンの司令塔」として、「考える機能」も組み込もうとしている。例えば、最適な出荷量や在庫量をAIが判断し、物流センター運営を管理する情報システムであるWMSなどが、作業者や管理者に指示を出したりするといったものである。さらに、トラックの出発・到着時間やルートを物流センターの入出荷トラックを管理するバース予約システムや求荷求車システムなどもAIにより自律的に管理される時代が近い内に来る可能性も高い。
手作業だけでは完成度が低かった物流の現場作業にプログラミングされた機械のフォローが加わることで、荷役プロセスが洗練、補完されていく。
シン・物流革命の課題
日本は、シン・物流革命の主役となり得るかというと、将来はそれほど明るくはない。ロジスティクスドローン、AGVなどは海外企業のプレゼンスが大きい。技術面でも価格面でも日本の企業が世界のトップランナーでないことは明らかである。ロジスティクステクノロジーの開発も、それを使いこなす技師も圧倒的に不足している。グローバルな視点で考えると、高度化を遂げる世界標準の物流オペレーションから日本が取り残される可能性もある。
物流ロボットや物流センターの無人化の流れの中で、たとえ労働力不足の問題が解決されたとしても、それは表層的な課題の解決に過ぎない。