イノベーション全史

発刊
2024年3月27日
ページ数
392ページ
読了目安
533分
推薦ポイント 6P
Amazonで購入する

Amazonで購入する

歴史からイノベーションとは何かを学ぶ
イノベーションの歴史を振り返りながら、イノベーションとは何かについてを学ぶ一冊。
現代社会を形作った、これまでの主要な技術がどのように生み出され、社会にインパクトを与えたのかを考察し、イノベーションを生み出すには何が条件となるのかが解説されています。

産業革命以降、様々なイノベーションの歴史を振り返ることで、「そもそもイノベーションとは何か」を体系的に理解することができます。

イノベーションとは何か

イノベーションは、エミュレーション(模倣)とディフュージョン(普及)のサイクルで起こるものである。どのようなジャンルのイノベーションであっても、このサイクルが重層的に連続して起こることで初めて、社会が大きく変わる。

 

・イノベーション = 新しさ × 経済的価値

イノベーションには「普及」の側面があるということが、科学技術と異なっている。科学的な発見や新技術の発明だけではイノベーションにならない。普及し世の中に対するインパクトがあること、人々の生活を変えること、経済的な価値を生み出すことで、初めてイノベーションとなる。

 

・イノベーション = エミュレーション(模倣) × ディフュージョン(普及)

「新しさ」は何も自分で発見、発明したものである必要もない。アメリカにおけるイノベーションの黄金時代には、元々はヨーロッパ発の発明や発見をエミュレーションし、それを大量生産でディフュージョンさせるということが、繰り返し大規模な形で起こった。

実際に成功したスタートアップを見ても、0→1のものはほとんどない。成功した企業は、1→100、1→1000というように、アイデアを実用化してスケールできた企業である。イノベーションにおいて最高の価値は実は普及、実用化といった努力にある。

 

イノベーションとは、科学的な発見をすることでも、発明することでも、アイデアを発想することでも、会社を興すことでもない。新しいものを世の中に普及させ、コストを下げて実用化し、需要を呼び覚まし、大きな利潤を創出し、多くの人の生活を変え、社会の価値観を変え、大きな投資機会を創出することである。

従って、イノベーションを構成する「新しさ」と「普及」のそれぞれで、担い手は異なる。「新しさ」を担うのは科学者や発明家だが、「普及」を担うのはアントレプレナーということになる。

 

イノベーション効果の逓減

1870〜1970年までの100年間は、「超」イノベーションが世界をガラリと変えた時代だった。経済学者ロバート・J・ゴードンは、この「特別な世紀」には、公衆衛生の進歩、電力、自動車、航空機、通信技術などの一連の画期的な発明によって、経済成長と生活水準の飛躍的な向上がもたらされたとしている。

一方、「特別な世紀」以降のイノベーションが私たちにもたらす変化は当時と比較すると鈍化しているとして、当時のような飛躍的な変化は見られないとしている。つまり、現代と大昔を分ける変化の大部分はこの100年間に起こっており、1970年くらいでほぼ現在の姿に近づいた。

 

ゴードンは、1970年以降のイノベーションが鈍化した理由として、以下の理由を挙げている。

  1. 基本的な発明の枯渇
  2. でもグラフィックな変化と教育の鈍化
  3. 格差の拡大
  4. 公的な負債の増大

これらの要因により、現代のイノベーションが「特別な世紀」のような経済成長をもたらすことは難しい、と主張している。

 

普及の担い手の変化

ゴードンは1970年代以降のイノベーションの停滞の理由として、そもそも大発明がなかったとしている。しかし、イノベーションは発明だけでなく、普及まで含む一連のプロセスであることを前提とすると、普及を担う主体の変化がイノベーションを阻害していたという仮説も考えられる。その普及を担う主体の変化こそが「大組織化」である。

 

20世紀後半、世界、アメリカは「大組織化」「集権化」というキーワードで代表されるものとなった。大企業が寡占的、独占的になり、政治面でも連邦政府の権限が拡大し、自動車や石油などの主要産業で少数の巨大企業が支配的になった。サラリーマン経営者が統治する大企業では、社会主義的な労働慣行が一般化し、アメリカ経済にはかつてのような下剋上の活力が失われてきた。

その後、1990年代に入ると、シリコンバレーでテック企業が大量に出現する時代となり、古くからの大企業は脇役となっていった。20世紀の最後に、デジタル技術とインターネットによる新しい産業の勃興とビジネスモデルの革新があり、大企業中心の経済から起業家社会を基盤とする経済への変革が始まり、「エミュレーションからディフュージョン」をもたらすアメリカン・システムが復活した。

 

次のフロンティアはどこか

技術がどんどん進歩しても、生活者が体感する変化には限界がある。つまり、生活水準の向上という意味では、フロンティアが消滅しつつあるのではないか、ということは実は多くの人が感じている。より速く、より大きく、より美味しく、より安く、というようなこれまでのフロンティアは限界まで達している。

 

人類は次のイノベーションのフロンティアを求めている段階である。新たな「超」イノベーションのフロンティアはどこになるのかには、様々な方向性がある。持続可能性、宇宙空間の利用、エネルギー革命、寿命革命などがある。