「ユーザーに何を届けるか」というコンセプトが重要
コンセプトとは「その製品を使うことによって、ユーザーの生活がどう変わるのか」という世界観である。世界観(コンセプト)を忠実に実現するためには、必要なもの(機能やデザイン、技術、広告など)を揃えなければならない。但し、不必要なものまで付加すると、過ぎたるは及ばざるがごとしで、コンセプトはすぐに崩れてしまう。だから「過不足なく揃える」ことが重要になる。
「ビジネスとは、商品やサービスを届ける行為」ではない。届けるべきは「コンセプト」であり、商品やサービスはそれを運ぶための乗り物でしかない。世の中には数多くの表現手段があり、その表現に乗せて「コンセプト」を顧客や観客に運ぶ。商品やサービスも「表現手段」の1つに過ぎない。
日本では、この「コンセプトが先にあって、それをどう運ぶのか」というクリエイティブの初歩が理解できない人が多い。商品やサービスは「機能」を提供するのだとばかり思っている。だから、顧客の喜ぶ機能、それを実現する技術力、とそんな話になってしまう。
まず誰に何を伝えるかを考える
ビジネスでは、根本的に「伝えるべきこと」、すなわち、その活動を通して相手に何を伝えたいかという「コンセプト」があり、それが最適に伝わるよう構成する「コンセプトワーク」が必要となる。「話す」「書く」「考える」より前に、まず「伝えたいこと」をしっかり定め、その後にそれをうまく表すための「素材」を集め、どのように話すべきか「手順」を整えることが大切である。
コンセプトは、ターゲットが変われば変わる。ターゲット(誰に)を決めれば、コンセプトも見えてくる。ターゲットとコンセプトはセットで考える。「ターゲットを設定し、そのターゲットがどのように受け取るか」を徹底的に考えること。そのために一番良い「コンセプト」は何か、その説得のための手順はどうするかを考えていく。
ポジションを明確にする
マーケティングの基礎用語に「ポジショニング」という言葉がある。同業界や同地域の競合と比較して異なる立ち位置を見出すこと。これは、競合他社と異なるコンセプトを顧客に提供することである。新商品開発だけでなく、今ある事業や商品も「ポジション」を明確にすることで、販売手法や広告などのパッケージングを魅力的にできる。
まずは、競合と比較した時の特色を羅列すること。長所でも短所でも構わないので、ありったけ並べて概観する。そうするとそこに違いの軸が見えてくる。これが「粗ベクトル」となる。次に粗ベクトルに違う要素を取り除いていく。そして、粗ベクトルに合う新たな要素を加えていく。この作業で磨きがかかったものが、良きポジションとなる。
ベクトルに沿って合わない要素を取り除く、合う要素を補強する。この作業を、組織論的には「アラインメント(一線化)」、マーケティング用語では「パッケージング」と呼ぶ。
多くの日本企業、とりわけメーカーは、コンセプトワークも弱い上に、パッケージングがさらに弱い。顧客アンケートで要望が大きい項目を加えてしまったり、競合他社が成功した機能を加えてしまったりする。そうしたことによって、総花的でベクトルがうやむやになってしまう。
ターゲットを絞る
マーケティングでは、もう1つ大切な基礎用語に「セグメント」というものがある。これは主に「ターゲット(訴求相手)」を絞り込む意味で用いられるが、他にも商品特性の絞り込みなどにも使われる。
商品やサービスを開発する場合、どうしてもそれが大量に売れることを目指して、なるべくたくさんの人に網をかけようとしがちである。同じように、商品やサービスをアピールする時、売り文句は多ければ多いほど良いだろうと、メリットを多々並べようとしがちである。
しかし、こうした「量の指向」は、「誰に何を言っているのか」をわからなくさせてしまう。そこで、より訴求の切れ味を良くするために、ターゲットやメリットを絞り込む、という行為が重要になってくる。ターゲットを絞ると、それによって「アピールすべき特徴」も限定される。
STP分析を活用する
ターゲットを絞り込み、商品特性と想定競合を考え合わせて、戦略を練る方法として、よく使われるのが「STP分析」である。STPは、S(セグメント)、T(ターゲット)、P(ポジション)を指す。
STP分析をする時は、まず競合を決め、次に比較項目(機能)を羅列し、その中からどの機能に焦点を当てるか絞り込む、という順番でS→T→Pを作り上げていく。機能の絞り込み方によって、何通りもS→T→Pの道筋が見出せる。比較項目を多彩に揃えて、何通りも機能の絞り込みをすれば、その数だけS→T→Pは生まれてくる。