不確実性の時代における経営者のミッション
急速に経営の前提条件が変化するとともに、先が見通せない不安定・不確実な環境下においては、今までの事業を守り維持していくことに注力する経営では通用しない。将来が読めない中でも、自社が乗るべき大きな潮流を見定め、自社の経営資源を成長できるポテンシャルを持った領域にシフトさせていくことが必要となる。経営者に今求められるのは、ロングタームの視点で将来を描き直し、現在から将来に向けた変革への道筋を示すことである。
長期的なトランスフォーメーションを成功させるために経営が果たすべきミッションは、次のようになる。
Stage1:今日の競走からキャッシュを得る
持続的優位な競争戦略により、目の前の競争を勝ち抜いて、どれだけ多くのキャッシュを獲得し続けるかが問われる。
Stage2:獲得したキャッシュを未来の創造のための基盤に投資する
このステージで必要なのは競争戦略ではなく、新たな市場を創り出すためのイノベーションである。新しい市場を立ち上げるには、自らリスクをとって市場創造をリードし、チャレンジと不屈の努力を続けていく視点がカギになる。ブルーオーシャンを切り開くための戦略を描き、獲得すべき必要なケイパビリティ、アセットを見極め投資し、新市場を切り開くことでコア事業を大きくシフトさせることが必要だ。
10年間で3つのウェイブをマネジメントする
10年間で2つのステージの構造変革を実現するために経営層に求められるのは、ステージを実現するための、長期視点で市場創造をする領域へと資源配分をシフトさせ、将来を創造することに力点を置いた投資ポートフォリオのシナリオを構築することであり、それに基づいたマネジメントを行うことである。
10年の時間軸の中で、次の3つの異なる時間軸で企業に収益機会をもたらす3ウェイブを同時に回していくことでキャッシュフローをつないでいくイメージを持つことが必要となる。
①コア事業のディフェンス
投資を抑え、今の事業で徹底して稼げる構造に改革する。
②次の周辺収益事業群の構築
比較的短中期でリターンを生み出すことが可能な、強みが活かせる周辺領域への投資。長期の投資を途切れさせない、次のキャッシュを生み出す領域を創る。
③将来の持続的な成長基盤の創造
新たなケイパビリティの獲得、未来の持続的な成長の基盤を支える将来のコア事業候補へのR&Dや機会探索・獲得的な先行投資を続ける。
10年時間軸のトランスフォーメーション実現のための5ポイント
長期的なトランスフォーメーションを実現するために経営として具備すべきポイントは、次の5つ。
①長期時間軸の投資ポートフォリオマネジメント
投資ポートフォリオマネジメントでは「時間軸×リスク(成功の不確実性)」のフレームでシナリオを描くことが必要となる。
- 1〜3年×コアスキル:既存事業からのキャッシュフローを維持し続けるための投資を行う
- 3〜5年×傍流のスキル:次のキャッシュフローを生み出すために、周辺領域への基盤・スキル拡張のための投資を行う
- 5年〜×新しいスキル:リスクをマネージしながら将来のコアになりうる新ケイパビリティ獲得のR&D的な投資を続ける
②競争戦略に陥らない自ら仕掛ける市場創造戦略のアプローチ
ブルーオーシャンを切り開くためには、市場が立ち上がる際の「S字カーブの前倒し」が重要である。そのためには、自社が挑むべきチャレンジを具体的に定義する必要がある。需要創造を促進するためのキードライバーは何か、どのようなテクノロジーやビジネスモデルの革新がこのイノベーションを実現するのか、それをどのように世に示すことで潜在的な受益者の行動変容を引き起こすことができるのか。これらを見定め、誰よりも早くチャレンジに乗り出し、適正な投資を続ければ、S字カーブの前倒しは可能になる。
③パーパスを戦略とつなげ、カルチャーまで変革する
戦略的なフレームワークを持ち、シナリオを組み立てることと並行して、必要となるのが組織・ケイパビリティの再定義および変革である。強い駆動力を持って変革を実行していくには、このソフトな側面の取り組みが不可欠となる。この変革を強力に後押しするには、組織、個人としての価値基準を再定義することが欠かせない。
④将来の成長価値への期待と信頼を生み出す投資家マネジメント
新たなケイパビリティの獲得を伴う新領域創造のための投資においては、経営層が投資家をマネジメントする能力を備えていることも重要になる。外部ステークホルダーである投資家に対し、成功が不確実で長期にわたる大きなチャレンジに挑むことに支持を得られなければ、トランスフォーメーションを成功に導くことは難しい。
⑤ミドルアップダウン型のリーダーシップチームの組成
長期的なトランスフォーメーションを回すには、1人のリーダーだけが牽引するのではなく、実行を支える参謀や現場で変革を推進するリーダーを含めた「リーダーシップチーム」を作ることが重要となる。