TBM ITファイナンスの方法論

発刊
2023年2月1日
ページ数
256ページ
読了目安
347分
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推薦者

企業のIT投資を最適化するためのフレームワーク
IT部門とビジネス部門との分断、CIOとCDOの役割の違いなどから、「IT投資が最適化されない」という企業の課題を解決するための方法論TBMを解説している一冊。

ITにかかるコストやパフォーマンス、利用状況などを可視化し、財務への影響を判断できるようにすることで、IT部門からビジネス部門、経営層まで共通言語のもとで、IT投資判断を行えるようにするためのフレームワークが紹介されています。
DXが叫ばれる中で、企業内で様々なITサービスが乱立する昨今において、重要となるIT部門に必要なマネジメント手法が書かれています。

企業のIT部門の課題

IT部門以外がテクノロジーを他人事として捉えている組織においては、IT部門はコストセンターとして扱われがちである。提供しているITサービスの価値を説明できないと、IT部門以外からは「やたらと費用がかかる代物」と見られてしまう。そしてITサービスの価値が理解されないままであると、一方的なコスト削減の方針が出され、結果的に組織にとって長期的で戦略的視点に立った重要な投資が削減の対象になってしまうことがある。

 

また、DXが叫ばれる昨今では、新規ITサービス開発に対する投資については「是」、既存ITサービスへの投資は「非」とされがちである。既存ITサービスの利用状況やコストなどがブラックボックスになっており、これらの投資にどのような意味があるのか理解されず、必要な追加投資がされないままになっている。

 

IT価値最大化の実現には、部門間の「分断」を防ぎ、IT部門、ビジネス部門、ファイナンス部門が協業する必要がある。そのためには、部門や地域を超えた共通言語によりIT投資を可視化し、透明性、納得感を醸成させ、IT投資の説明責任の仕組みを確立することが大切である。経営層、株主レベルまで透明性を持って説明責任を果たそうとすると、ファイナンス・財務会計と連動し、IT投資は常にP/Lへの影響を把握した上で判断される必要がある。

 

IT部門の運営をファイナンス思考へ

こうしたITの課題に対してファイナンス思考でアプローチする方法論が「TBM(Technology Buisiness Management)」である。

TBMはデータドリブンを組織内のITの世界に適用する考え方である。組織の中で利用されているITサービスは、ハードウェアやソフトウェア、それを開発する人材といった「リソース」が「プロジェクト」に投入され、そのプロジェクトを通じて「アプリケーション」がつくられ、そのアプリケーションは「インフラストラクチャー」上で稼働し、「ビジネス部門」にITサービスとして利用される。このITサービスのコストだけでなく、利用状況や生み出されるパフォーマンスも可視化することで、IT部門とビジネス部門の間に、共有認識、共通言語が生まれる。この共通言語をベースに、組織内ITにおけるサプライチェーンの最適化を実現する。

 

TBMは、基本的には組織が既に持っているデータソース、つまり、ERPシステムの総勘定元帳に入っているデータや、総勘定元帳に入る前の購買管理データ、経費精算データ、社員の給与情報、ITプロジェクトのマネジメントデータなどを取り込み、そのデータを一定のルールで分類と配賦を行いながら、「リソース」「ITアセット/プロジェクト」「アプリケーション/サービス」「利用者」のレイヤーに分け、トレードオフの関係にある、コスト、利用状況、そしてパフォーマンスのバランスをとりながら、組織内のIT投資を継続的に最適化していく。

 

TBMの全体像

TBMは次の5つの要素で構成される。

 

①TBMフレームワーク

IT部門経営のためのマネジメントフレームワーク。以下のことを定義する。

IT部門の2つの役割

    1. 提供価値の整理
    2. 継続的な提供価値の改善

IT部門の4つのやるべきこと(規律)

    1. 可視化
    2. IT予算と統制
    3. コスト最適化
    4. 関係性改善

IT部門がビジネス部門と行う4種類の会話(KPI)

    1. コスト対効果
    2. ビジネスアライン
    3. イノベーションへの投資
    4. 変化へのスピード

 

TBMフレームワークの中で、「運用費の継続的削減」と「新規開発投資の最適化」というゴールを目指すために「2つの役割」を通じて、IT部門の段階を上げていく。まず4つの規律の内「可視化」を行い、可視化された状態に基づいて、IT部門がビジネス部門を含めたステークホルダーと会話しながら、その他の規律「IT予算と統制」「コスト最適化」「関係性改善」を実行していく。この時、ステークホルダーを巻き込むために「4つの会話」を用いる。

 

②TBMタクソノミー

ITに関係するステークホルダー全員が、ITの価値について会話ができるようにするための共通言語。ITリソースコスト、テクノロジースタック、プロジェクト、アプリケーションやITサービスを体型的に分類した業界標準の分類体系。

 

③TBMモデル

TBMタクソノミーの各レイヤーにあるオブジェクトの定義、オブジェクトに入るデータ要件、レイヤーをまたがってオブジェクトを関係させる配賦ルールを定義したもの。配賦ルールは企業の要件に合わせるため、TBMモデルは各社固有のものとなる。

 

④TBMメトリクス

IT部門が提供している価値についての指標。指標は大きく4種類に分類される。

  1. コスト効果
  2. ビジネスへアライン
  3. イノベーションへの投資
  4. 変化への対応スピード

 

⑤TBMシステム

TBMを実践するためのシステム。求められる要件は次のように定義されている。

  • TBMモデルを構築する機能
  • 他システムからのデータ取り込み・変換・ロードする機能
  • レポートやKPIを提供するダッシュボード機能と分析機能
  • ITに関係するデータをステークホルダーにわかりやすく提供する機能
  • データをセキュアな状態に維持する機能

 

参考文献・紹介書籍