最高のリーダーになるための参謀の仕事術

発刊
2022年12月26日
ページ数
224ページ
読了目安
258分
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日本バスケットボールの大躍進の裏で行われてきた取り組み
低迷していた日本バスケットボールを強化育成し、男子日本代表の東京オリンピック出場、女子日本代表の銀メダルという結果を出すまでの、日本バスケットボール協会の道のりが書かれている一冊。
スポーツの中では実力差がはっきりと出るため、奇跡では勝てないと言われるバスケットボールで、チームの実力の底上げをするために何をすべきであったかが語られています。

アルゼンチンの成功モデルから学ぶ

2016年、日本バスケットボール協会(JBA)では、日本と世界との差を分析し、日本の強みを導き出すために技術委員会を設置した。ただ単に代表の強化を考えるのではなく、バスケットボール全体の戦略を練る場所と位置付けられ、新しい試みが始まった。

 

技術委員長に就任したのは、2016年6月。東京オリンピックまで実質3年半しかなかった。短期間で組織を立て直し、東京オリンピックで結果を出すことがミッションだった。

技術委員会の組織作りの参考にしたのは「アルゼンチン男子バスケットボールの強化・育成システム」だ。「中長期で選手を育てる体制」「指導者が力を発揮できる環境整備」「世界との戦いに備えた海外進出の方針公開」などの取り組みが行われているのが、アルゼンチンモデルである。

 

男子アルゼンチンバスケットボールは、日本人の平均身長とさほど変わらず、44年もの間、オリンピックに出場していなかった。ところが、2004年のアテネ・オリンピックで金メダルを獲得し、その後もメダルを獲得するなど継続した世界での結果を出し続け、今なおワールドカップやオリンピックの常連国となっている。

アルゼンチンが成果をおさめた理由の1つに、人材育成を大切にしていることがある。コーチが世界で学べる環境を作り、世界に向かせるための指導内容を共有し、若い選手が切磋琢磨できる環境を作った。15歳からの選手保有・移籍制度、飛び級制度、一貫指導の責任感とクラブによる育成など、連盟がリーダーシップをとって、先を見据えた選手育成をしていた。こうした取り組みの1つ1つがアルゼンチン男子代表の成果につながった。

 

アルゼンチンは協会・リーグが中心になって土台を作り、クラブが先頭になって強化を図っていた。チームも育成も「世界」に向けたベクトルがあり、この時期に何をしなければならないかを明確にしていた。日本には、スタンダードを明確にさせながら「世界で勝つための全体像」を構築することが欠落していた。

 

ミッションを明確にする

技術委員会では、それまでの歩みと結果からの分析をもとに「日本バスケットボール強化への道筋」というロードマップを描き出した。映像や数字を駆使したデータ分析では、試合結果を数値化して分析し、その分析は選手個別のパフォーマンスにまで至った。また、映像のコーディング技術を駆使し、即座に選手へパフォーマンスのフィードバックを行える環境を整備した。

こうした新たな取り組みに基づき、選手とヘッドコーチはコミュニケーションを取りながら、改善を重ねて、チーム作りが行われた。選手の選考方法や、選手の「日常を世界基準にする」というコンセプトを作り、ファンダメンタルの向上、戦術の構築などを掲げた。

 

技術委員会が発足した際、そもそも「何をする」ところなのかを整理した。技術委員会は、英知を結集し、教訓を積み重ねる。これまで現場に強化を任せきりで、情報の共有ができていなかったことを、委員会と現場が力を合わせる文化を築くことで、過去の経験を見える化し、対策を立てて実行すると提唱した。

次に、JBAに関わる誰もが、自分の仕事に責任を持って打ち込めるような環境を整備した。そのために「役割・責任・権限」をはっきりさせた。全力で取り組んだことであれば、成果がすぐに出せないとしても、結果を客観的に分析し、次への行動を論理的に導き出すことができる。つまり、状況が良い時も悪い時も、それに影響されないような、個々人の心理的安全性が守られる環境を用意した。

 

代表ヘッドコーチの人選

当時の男子日本代表の世界ランキングは52位であり、オリンピック出場の可能性は薄いとはっきり言われ、向き合うことになった。開催国枠を取るには、2019年のワールドカップ出場が最低条件だったからである。

開催国枠を獲得するためのカギになるのは、ヘッドコーチの人選であることは明らかだった。ヘッドコーチを選出する際は、目指す方向性を理解し、心から共感し、ともに本気で汗をかくことができる人物を招聘する必要がある。優秀なヘッドコーチを探しにバスケットボールの強豪国の関係者を訪ねて歩き、メモを取り、ヒアリングを進めた。

候補に挙がったのは30名を超えた。その中で、ロンドン・オリンピックでアルゼンチンが4位になった時の代表ヘッドコーチで、アメリカズカップで金メダルを獲得している名将フリオ・ラマス氏にオファーを出し、2017年にラマスジャパンがスタートした。

 

東京オリンピックでは、女子日本代表が銀メダルを獲得、男子日本代表は2019年のワールドカップアジア予選で結果を出し、開催国枠とは言え、45年ぶりにオリンピックに出場した。