指導者の不条理 組織に潜む「黒い空気」

発刊
2022年12月16日
ページ数
288ページ
読了目安
331分
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推薦者

組織はなぜ間違うのか
太平洋戦争における日本軍の指導者たちの失敗の原因を改めて分析しながら、組織の判断を間違わせるものとは何かを解き明かしている一冊。
人間は合理的に失敗するとして、経済的観点、経営学的観点、哲学的観点のそれぞれから、人間の意思決定に影響を及ぼす要因と、その失敗に至るメカニズムが解説されています。

人間は合理的に失敗する

現実の人間は完全情報のもとで合理的に行動するのではなく、限定された情報のもとで合理的に行動しようとする。よって、人間は非合理的だから失敗するのではなく、むしろ合理的に失敗するという不条理な現象が起こる。特にこの限定合理的な世界では、人間が何を行う場合でも、必ず「コスト」を伴う。そのため、このコストがあまりにも大きい場合、人間は次のような合理的失敗、つまり不条理に陥ることになる。

 

【不条理の定義】

  1. たとえ現状が非効率的であっても、より効率的な状態への変化・変革する場合、コストが発生し、そのコストがあまりにも大きい場合。あえて非効率的な現状を維持する方が合理的となるという不条理(非効率の合理性)
  2. たとえ現状が不正であっても、正しい状態へと変化・変革する場合、コストが発生し、そのコストがあまりにも大きい場合、あえて不正な現状を維持隠蔽する方が合理的となる不条理(不正の合理性)

 

こうして、人間あるいは組織は合理的に失敗することになる。特に組織の指導者がこのような不条理に陥りながら組織を率いる時、組織は何か嫌な感じの重たい「黒い空気」に包まれる。

 

日本の組織の無責任構造

交渉取引には、多大な人間関係上の無駄が発生する。この一連の取引上の無駄のことを「取引コスト」という。これは、会計上には表れない「見えないコスト」である。しかし、人間はこのような取引コストを比較的簡単に認識し、それを忖度する。そして、このような「取引コスト」を節約するように、人間は合理的に行動する。

 

そして、人間が人間関係上の取引コストを忖度すると、損得計算上、合理的非効率や合理的不正な状態を選択し、合理的に失敗する。特に個人主義的な欧米人と異なり、日本人は未だ集団主義的で人間関係が相互に密であるために、人間関係上の取引コストは比較的高くなる傾向がある。そのため、日本人や組織は欧米人に比べて不条理に陥りやすく、「黒い空気」に支配されやすい。

しかも、損得計算の結果は、大抵、メンバー間で一致するので、相互主観的という意味で、その選択は客観的でもある。さらに、そのような行動の原因は、その時に与えられた状況にあるので、誰も責任をとる必要性を感じない。失敗した時には「あの時の状況ではああせざるを得なかった」といった言い訳ができるのである。こうして、指導者は無責任となり、「黒い空気」に支配されて合理的に失敗する。

 

日本の指導者たちが依存する正当化方法は、大抵、相互主観性としての客観性である。そのため、日本の指導者たちは、客観性を求めて会議では全会一致原理を採用しようとする。これが日本の組織の無責任構造を形成しているのであり、日本的な「空気」発生の構造となっている。

 

「黒い空気」に支配されないための処方箋

不条理な「黒い空気」に支配されない強い組織とは、赤字になってもついてきてくれる従業員、取引企業、投資家、顧客からなる組織である。このようなステークホルダーからなる企業は強い。こうした従業員や取引企業、投資家、顧客を獲得するには、彼らに損得だけではなく、この会社が好きだと価値判断してもらう必要がある。そうすれば、企業が一時的に赤字になっても皆逃げないし、むしろ助けてくれる。そのため、組織を覆う不条理な「黒い空気」も浄化されるだろう。

 

顧客、取引企業、従業員、株主たちにファンになってもらうには、そもそも経営者やリーダー自身が損得計算原理に従って打算的に行動する以上の魅力的な人物でなければならない。経営者やリーダー自身が魅力的であるためには、重層的に価値判断するような人物でなければならない。そして、もし正しいと価値判断できれば積極的に実践し、不正だと判断するならばあえて行動しない。このような経営者やリーダーは、たとえ儲かるとしても不正なビジネスは行わないだろう。そして、それがリーダーの権威の源泉になる。

経済的側面を評価するだけでなく、倫理的側面も評価する経営者やリーダーのもとでは、上司と部下の間、メンバー間で自由な批判的議論が可能となり、そのため「黒い空気」は浄化され、企業組織は進化することになるだろう。

参考文献・紹介書籍