MEGATHREATS 世界経済を破滅させる10の巨大な脅威

発刊
2022年11月19日
ページ数
420ページ
読了目安
635分
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世界経済崩壊の悲劇的なシナリオ
リーマンショックによる世界金融危機を予言した経済学者が、現在直面している世界経済の危機を解説している一冊。
既に世界中で過剰な政府債務を負っている状況の中、政府や中央銀行には、次の金融危機に対する余力がないと説き、現在進行するインフレの影響と金融バブル崩壊による経済崩壊のシナリオに警鐘を鳴らしています。経済、政治、環境、テクノロジーなど、あらゆる分野における脅威が複合的に交わり、次の巨大な脅威となると予言しています。

10の巨大な脅威

現在の世界は、規模の点でも警戒を要する点でも桁外れの10の巨大な脅威に直面している。

  • 積み上がる債務
  • 誤った政策
  • 人口の時限爆弾
  • 過剰債務の罠とバブル
  • 大スタグフレーション
  • 通貨暴落と金融の不安定化
  • 脱グローバル化
  • 人工知能
  • 米中新冷戦
  • 気候変動

 

これらの脅威をしっかり認識し、生活や生命を奪われないようにするために何ができるかを考えて行動しなければならない。長く続いた平和と繁栄はこれ以上続きそうにもない。現在起きているのは、安定の時代から不安定と紛争と混乱の時代への大転換だ。これまでに遭遇したことのない巨大な脅威に人類はさらされており、これらは相互に関連している。

脅威は経済、金融、政治、地政学、テクノロジー、健康、環境と広範囲にわたる。健全な政策を実行すれば、脅威を部分的に回避できるかもしれない。しかしいくつもの脅威が同時に襲ってきたら、悲劇は避けられない。

 

悲劇的なシナリオ

巨大な脅威は構造的だ。所得と富の格差、巨額の政府・民間債務、金融の不安定性、気候変動、パンデミック、人工知能、地政学的緊張は、どれも世界のシステムと文化に深く根ざしている。だから、脅威を招いた原因を不用意に断ち切ろうとしたら、意図せぬ結果を招きかねない。

 

持てる者と持たざる者との乖離は、巨大な脅威が迫っていることを知らせる重要な兆候の1つだ。貿易とグローバル化は、先進国にも新興国にも経済における勝ち組と負け組を作り出す。製造拠点は人件費の安い国へ移転し、かつては栄えた街に廃墟と化した工場や住宅と大量の失業者を残す。資本は高いリターンを求めて富裕国から貧困国に流れ込み、逆に移民は貧困国から富裕国に押し寄せて強い反感を生む。技術革新は人間の労働者をロボットに置き換えるが、人間はモノやサービスを買うのに対し、ロボットは電力を消費するだけだ。所得も富もどんどん一握りの人間に集中し、不平等を助長している。

そして家系や職業のネットワークが不平等を固定化させる。金持ちになるチャンスは次第にエリート層の子供達にしか届かなくなった。実力主義や能力主義と言われる教育制度は、必ずしも実力や能力に報いるようにはできていない。富の不平等で痛手を被るのは、所得階層の下の方だけでなく、中流層やホワイトカラー労働者もしわ寄せを受ける。

 

不平等が深刻化すると、社会保障費や補助金などで財政赤字が増えるとともに、個人貯蓄の取り崩しが増えがちであり、これを政府や個人の債務で埋め合わせることになる。しかしそんなことがいつまでも続けられるはずがない。不平等解消を求める政治への圧力が高まってくる。

傲慢なポピュリスト政治家はメディアなどを巧みに利用して弁じ立てるが、真の解決には近づかない。社会は二極化し、有権者は一段と右か左かに偏って合意の余地は乏しくなり、議会の審議はこう着状態に陥る。西側ではポピュリズムが台頭し、権威主義的な体制が出現する。対する東側は独裁国家や権威主義国家で溢れている。不平等と気候変動は、人を選ばず一国あるいは世界全体に広がる性質を備えている。

 

イノベーションは多くの問題を解決してくれるが、持続不能な債務を帳消しにしてくれるわけではない。2008年のグローバル金融危機を引き起こした行為は、一向に止む気配がないどころかひどくなっている。

職もスキルもなく貯金もなく借金を抱えて希望を失った人たちが、その瞬間にも搾取されている。多くの人が、金持ちになるのに必要なのは立派な仕事や勤勉や忍耐強い貯蓄、長期投資ではなく、一攫千金を狙うことだと考えている。そして本質的に価値のない資産に賭ける。その代表格が暗号通貨だ。

 

このバブルも必ず崩壊する。問題はそれがいつかということと、どれほどの規模かということだ。一番新しい大規模な資産バブルには、2022年初めに最初の小さな破裂が起きた。だが政策当局は、金融・信用・財政面のリソースを既にほとんど使い果たしている。本格的な金融危機が発生したら、実体経済を救うことはまず不可能だろう。中央銀行も政府も弾切れであり、新たに大規模な景気対策を打ち出すことができないとなれば、深刻な景気後退を茫然と見守るほかない。地域協力は途絶え、暴動や内乱が頻発し、強国は世界の資源争奪戦で優位に立とうと躍起になるだろう。

ユーロ圏が要注意だ。特にイタリアやギリシャといった鎖の弱い環が問題で、こうした国から債務危機の兆候が一気に危機へとなだれ込む。経済の弱い国は債務危機に直面し、競争力を失い、おそらくはEU離脱を迫られるだろう。そうなったら通貨同盟は空中分解しかねない。

 

次に起きる危機は、これまでの2度の危機とは重要な点で異なる。それは1983年以来、およそ40年ぶりの高水準のインフレだ。今回のインフレは一過性ではないと見られる。しかし多くの中央銀行は債務の罠に陥っており、政策余地が乏しい。中期的な供給ショックが次の危機を誘発する時には一層の高インフレになっている可能性が高く、危機を一段と深刻化させるだろう。