なぜESGが必要なのか
投資家たちが、社会や環境にも配慮するよう、会社に求めるようになっている。今までの「会社」と「株主」のルールの延長線上にあるのは「経済合理性」である。そんな合理的な考え方でお金をめぐらせることを「ESG投資」という。
ESGの具体的な項目としては、それぞれ以下のものがある。
E(環境):気候変動対策、生物多様性、水などの自然資源・エネルギー問題など
S(社会):顧客対応、従業員との関係、取引先との関係、人権、地域社会への貢献など
G(企業統治):株主・投資家との関係、取締役会、コンプライアンス、リスク管理など
このESGは、成長率を加速させるパターンとリスクを減少させるパターンに分けられる。
成長率を加速させるESG:人的投資、社会課題解決型の事業、付加価値創造型の環境対策など
リスクを減少させるESG:人権の保護、事業リスク軽減型の社会・環境対策、コンプライアンスなど
売上や利益だけでなく、ESGに配慮した投資は、欧米の株式市場で起こった波で、今、日本に押し寄せている。ESG経営は「新しい会社のルール」になっている。
なぜ利潤を追求するはずの株式市場からそんな要求が企業に寄せられているのか。それは巨大な資産を長期間にわたって運用する投資家にとっては、世界経済全体の影響を避けることができないからである。気候変動対策を何もしない場合に将来予想される世界の経済損失と、今から対策する場合の世界のコスト総額では、後者の方が損失が小さい。結局、ESGは経済的な価値に関係があるのである。
経済は、将来を織り込んで「今」値段を変えてくる。既に保険会社は気候変動リスクを織り込んで値上げをしている。世界中の消費者が、気候変動を最小限にしようと意識して買い物をすることも今起こっている変化である。家の電気契約を再生可能エネルギーにしたり、電気自動車に替えたりすることもそうである。
最も重要なのは、経済の変化を踏まえ、投資家は「今」気候変動を考慮して、資金を右から左に移していることである。さらに気候変動対策に真摯に取り組まないか、取り組みをきちんと公開しない会社からは、投資を「今」引き上げるか、すぐに対策に取り組むよう「今」圧力をかけている。
これに呼応して、既にグローバル企業は、気候変動などの環境や社会の課題解決に向けて、「今」ビジネスを変えている。
社会の持続可能性が企業の持続可能性につながる課題に取り組む
ESG投資家たちは、長期的なリスクを低下させ、事業成長にもつながる形でステークホルダーや環境に配慮する経営を評価し、お金を回そうとしている。
ESG施策を実行する際には、短期的に収益力が低下することもある。しかし、目の前の収益と、未来の現金収支予想をベースとする企業価値とは必ずしも相関しない。現在の収益がマイナスでも企業価値には大きな変化がないこともある。
それは、長期的な視点で、事業が長くやっていける「企業の持続可能性」と、ステークホルダーとの良い関係が長続きする「社会の持続可能性」が両立している場合である。それが長期的な視点の投資家が求めるESGになる。
これを4象限で表すと次のようになる。
- 社会の持続可能性+ × 企業の持続可能性+ = 最も重要なESG課題
- 社会の持続可能性+ × 企業の持続可能性- = 善行だけどコスト
- 社会の持続可能性- × 企業の持続可能性+ = 企業や株主のエゴ
- 社会の持続可能性- × 企業の持続可能性- = ムダ
最も重要なESG課題は、業績や会社によって異なる。同じ環境対策でも、IT企業ならサーバーの電力を多く使うので、その電力を再生可能エネルギー100%に替えるような取り組みは、最も重要なESG課題に入る。飲料メーカーが水資源を守る植林活動をすることも同様である。こういったものが「株主と社会の共通善」となり、企業も社会も「サステナブル」と言える。
ESG企業が格付けされる時代に
ESG対応の良否で、企業を格付けする専門機関が世界には複数出てきている。ESG投資の評価においては、色々な要素が絡み合っている。E(環境)ばかり重視されているわけではない。とりわけ、S(社会)の内、従業員など「人」に関することには、今投資家の注目が集まっている。つまり、投資家からの期待には、社員の働きがいや健康を守ることなどが加わっている。
S(社会)には、幅広い概念がある。他にも顧客の個人情報の保護、製品の安全性・信頼性、下請けの保護、行政など地域社会との健全な関係なども企業が向き合うべき問題である。
G(ガバナンス)では株主の権利の確保、取締役会の在り方、不正防止などコンプライアンスやリスク管理も含んでいる。
業種によって社会や環境への関与度はそれぞれ異なるので、業界ごとの特性を勘案した基準が作成されている。