「プランB」を事前に用意せよ
企業経営においては、必ずプランが作られ、当初のプランは環境の変化とともに修正されなければならない。多少の修正で済んで目指すゴールが変わらないなら良いが、そうとは限らないのが現実である。「見通しの甘さ」「外部環境の変化」「能力不足」などがあればゴールに到達できない。中でも外部環境のファクターは予想外の進展が多く、未来の環境は制御できない。
そこで重要になるのが「プランB」である。「プランB」とは「予想外の事態に対応する一手」「自らの読みの甘さを踏まえた上での挽回の一手」である。プランAを立てた時点で、予想外の状況をいくつも想定して「プランB」は策定されるべきものであり、決して「代替策」のような性質のものではない。
「プランB」が発動できない理由
「プランB」の作成は何が起こるかわからない未来への準備をすることである。政治、行政、経営を問わず、神でなければ「当初のプランが絶対にうまく行く」などと断言できない。しかし、なぜか駄目とわかった「プランA」が温存されることが多い。
「プランA」が温存される例が、会長、社長など権力者の肝煎りで始まったダメ事業の存続である。みんなが内心失敗だと思っているが、権力者への忖度によって赤字のまま継続する。こうした「プランB」の発動を妨げる理由は様々ある。
①集団思考
集団思考は、組織文化に縛られて物事を客観的に見られなくなる組織バイアスや、内部で確立された行動パターンに固執する集団的保守主義などによって起こる。また集団思考からくる思考停止は、別段問題がなければ現状を変えない現状維持バイアスや、偶然うまく起きたことがずっと続くと錯覚するホットハンドの誤謬などによって起きる。
集団思考は、次の3つの要因が揃うと起きると指摘されている。
- 組織が類似した考えを共有して同調圧力が強いこと
- 組織が外部からの批判を受け入れないこと
- 組織が成果を求められるなど、強い圧力を受けていること
②楽観主義
楽観的な起業家ほどリスクの高い道を選択する傾向があるのに、本人はそれを自覚していない。楽観主義があると、悪い事態が起きる確率を過小評価して、事態をコントロールできる気がする。これは「支配の錯覚」と呼ばれる。本当は現場は混乱しているのに、経営者は現場を見ずに「自分はしっかりコントロールしている。計画に間違いはない」という判断を下しがちである。
③何かに縛られる
組織に縛られる。事前に与えられた情報に縛られる。集団内の常識に縛られる。ほとんど起きそうにないことに縛られる。
④思い込みに左右される
やらなかった後悔はしたくないという思い込み。ジンクスは当たるという思い込み。少ないサンプルで全体がわかるという思い込み。見たものは信頼できるという思い込み。わかりやすいことは正しいという思い込み。
⑤数字に操られる
既に起きた損失に操られる。少額の赤字に操られる。ゼロまたはイチに操られる。無力なデータベースに操られる。
「プランB」を発動させる方法
①「悪魔の代弁者」の助けを借りる
疑い深くあら探しをして、反対意見を言い、わざと疑問を投げかけて議論する悪魔の代弁者の役割を持つチームを置く。「悪魔の代弁者」としてチームが機能するには6つの鉄則がある。
- 他の部門から協力を得られるようにチームを組織トップの直属にすること
- 外側から客観的に評価し、内側から気遣いを持って実行すること
- 健全で大胆な猜疑心を持つこと
- 周囲に関心を持たせる、意外性が高い活動をすること
- 問題を棚ざらしにしないこと
- 適度な頻度にこだわること
②アイデア集約と実行のための仕組みを作る
組織は大勢の人間の共同体なので、個々人のアイデアを集めて形にするための仕組みがないと、シナリオすら作れない。企業による、そのための仕組みの例がオープン・イノベーションであるが、「プランB」の発動にも同じ要因が求められる。
- 5つのハードルを排除する
- 外部へオープンにして良い情報かどうか基準が明確でないこと
- 自社の事業ニーズをオープンにする影響が整理されていないこと
- 「ライバル企業は敵」という思い込みがあること
- オープンな人材が不足していること
- 社員のマインドセットが変わらないこと
- 違う発想を採り入れる
- ダブル・スタンダードを認める
- プラットフォームを進化させる
③AIにできない課題発見をヒトが行う
尖った課題設定はビジネスを独創的にする。現在のAIに任せておけないのが、ビジネスにおける「課題の設定」である。
④人を説得する能力で集団思考を打破する
「プランA」と「プランB」のどちらが正しいか立証することは不可能なので、関係者に方針を納得させることが不可欠である。そのための説得には、聞いている人の「共感」を得ることが重要である。人を説得するには「信頼」「感情」「論理」の3要素が必要である。