イノベーションの本質は「行動変容」
イノベーティブな発明であることと、イノベーションであることとは、必ずしも結びつかない。技術的に新しさはなくともイノベーションと呼べる商品、サービスは存在する。イノベーションとは技術革新だけに頼るのではなく、人々を取り巻く環境の変化や商品やサービスを利用する人の心理変化が、成功させる要素として必要である。
世の中に存在しなかった画期的な発明やサービスは、企業におけるイノベーションの必要条件ではない。それよりも新しい製品・サービスを消費者や企業の日々の活動や行動の中に浸透させることこそがイノベーションの本質である。これを行動変容と呼ぶが、これこそが企業がイノベーションを起こすためのカギとなる。
イノベーションを引き起こす3つの源泉
イノベーションとは、これまでにない価値の創造により、顧客の行動が変わることである。このイノベーションを引き起こす源泉「イノベーションのキードライバー」は次の3つである。
①社会構造
社会や業界の根幹を覆すような構造の変化。人口動態や産業構造、法規制、景気など、社会全体の構造の変化もあれば、物流業界における宅配インフラの需給バランスの変化といった特定の業種・業界に絞った構造変化なども対象となる。
②心理変化
消費者を代表とする市場参加者の行動、常識や嗜好の変化。昨今の例では、コロナウイルスの蔓延による外出に対する生活者や企業の心理的な変化が挙げられる。
③技術革新
通信技術のような社会インフラとして利用される技術の他にも、一部の業界に閉じた特殊な技術や自社の独自技術も含まれる。
これらの組み合わせを「イノベーションのトライアングル」と定義する。イノベーションを起こそうとするなら、まずこのトライアングルというレンズで環境変化を捉え、何が自社にとってのドライバーになるのかを見立てることが起点になる。
イノベーション創出のプロセス
イノベーションのトライアングルは、自社の技術開発という狭小な領域から脱する視座を与え、イノベーションの強力な起点となる。しかし、単にこれまでと異なる着眼点を見出すだけでは、イノベーションは起こせない。
ドライバーを捉え、これらをテコにこれまでにない新しい価値を創造し、その新しい価値が顧客の態度を変え、さらには行動を変えてこそイノベーションと言える。
①トライアングル:トライアングルによりドライバーを捉える
②価値創造:ドライバーをテコに新しい価値を創造する
③態度変容:顧客の態度が変わる
④行動変容:顧客の行動が変わる
イノベーションを阻むトラップ
価値創造だけではなく行動変容まで達成されると不可逆な変化となる。したがって、行動変容の実現こそがイノベーションである。しかし、実際には企業が価値創造をしながらも、顧客に態度変容が起こらなかった事例の方が圧倒的に多い。その要因は次の2つである。
・技術革新以外のドライバー無視
構造変化や心理変化を捕捉せずに、技術革新だけを基に価値を創造してしまうと、「斬新だが必要ない」と受け取られ、態度変容に失敗する可能性が高い。ex. Google Glass、PAX
・ドライバーの過大評価
変化の度合いを過大評価して価値創造してしまうと、「時代が早すぎた」商品・サービス隣、態度変容が起きることなく終わってしまう可能性が高い。 ex. ペッパー、ラボリス
表面的にドライバーを捉えた価値創造では顧客に態度変容は起こらない。各ドライバーの変化の度合いを適切に見定めて価値創造を行うことが必要である。
また、現実には態度変容だけでなく、行動変容も簡単には起こらない。なぜなら、人の行動のほとんどは長い年月をかけて習慣化されているからである。ドライバーを捉えた価値創造によって顧客の態度変容が起きたにもかかわらず、習慣が変わらず行動変容には行きつかない要因は次の2つである。
・新しいが小さい価値創造だった
提供価値がもたらす変化が小さすぎて、顧客に行動変容を起こすほどのインパクトをもたらせない。 ex. Quick1、そのまんまトースト
・新しい価値創造だったが土俵が違った
提供価値が顧客の本質的なニーズに合致せず、一時的なブームに終わってしまう。 ex. リンスインシャンプー、透明飲料
後発者がイノベーションを起こす方法
行動変容を起こすのは、必ずしも価値創造を実現したプレイヤーと同じでなくてもよい。後発者が油揚げをさらうトンビとなって、イノベーターとなったケースには、2パターンある。
・同一市場で価値を磨き続ける
先行者の課題を解決することで、後発者が同一市場で価値を磨き続け、イノベーションを起こす。 ex. メルカリ、Kindle
・別市場に価値を転用する
先行者がつくった価値創造を、後発者が別の市場に転用して、イノベーションを起こす。 ex. Makuake、QRコード