非カリスマ経営

発刊
2022年6月22日
ページ数
224ページ
読了目安
235分
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アニメ専門チャンネル「アニマックス」の経営
インターネット動画もない時代、アニメ専門チャンネル「アニマックス」を立ち上げ、ソニーグループ会社の代表を務めた著者が、新規事業の立ち上げとマネジメントについて、これまでの経験を語った一冊。
アニメの現場の知識がなかったからこそ、優秀な人材を採用し、サポートするというマネジメントスタイルを築くことができたとし、経営者にとって大切なことを紹介しています。

アニメ専門チャンネル「アニマックス」

アニマックスは、1998年7月に開局したアニメ専門チャンネルだ。当初は有料多チャンネル放送のプラットフォームである「スカパー」で視聴できるチャンネルとしてスタートし、現在はケーブルテレビや「ひかりTV」などでも視聴できる。
最大の特徴は、新旧のメジャーなアニメ作品を、24時間365日放映していることだ。視聴者の対象はアニメが好きな30〜40代のライトユーザー。インターネットがまだ動画に耐えられる質ではなかった90年代当時、アニメを見るには地上波テレビで見るか、ビデオ・DVDを購入・レンタルするしかなかった。そうしたライトユーザーが、子供の頃に見ていたアニメ作品をいつでも気軽に観られるようにしようというコンセプトを元に放映作品を選んだ。

 

アニマックスの筆頭株主であるソニー・ピクチャーズテレビジョン・ジャパンは、アニメの制作実績が全くなかった。にもかかわらず、開局当初から数多くのメジャー作品を放映することができたのは、東映アニメーション、サンライズ、トムス・エンタテインメント、日本アドシステムズの4社が資本参加しているからだ。

 

しかし、いくら子供の頃に見たアニメ作品が観られるといっても、わざわざCS放送のアンテナを設置し、月々の視聴料を払って観るのはハードルが高い。そうしたハードルを超えるために「付加価値」が必要だった。そこで、開局当初からアニマックスならではの様々な企画を繰り出した。

  • 全話一挙放送
  • 監督を始めとした制作者のインタビュー映像
  • オリジナル特集番組(日本のアニメベスト100など)

アニマックスでしか観られない番組を増やしていくことで、視聴世帯の増加につながった。

 

アニマックスは、着実に契約数が伸びて、4年目の2001年に単年度黒字を達成。その後数年にわたって40%近い営業利益率を生み出し、日本の有料放送業界ではトップレベルの成績を生み出す事業となった。視聴可能世帯は、現在も日本のCS放送業界でトップレベルである。

 

なぜアニマックスは成功したのか

アニマックスの成功要因を、第一に挙げるなら「優秀な人材が集まったから」だ。アニメ業界について全くの素人だったが、サポートする優秀な人材を採用し、マネジメントチームを編成できたことで、アニメチャンネルを成功に導くことができた。

アニマックスを成功させるために、どんな人材を集めたのか。基本方針として掲げたのが、できるだけソニー外の人材を採用することだ。ソニーグループからの出向では、新しい事業にコミットしてくれるか疑問だ。採用の基準は、CS放送業務か、それに該当する経験を有していること。またはアニメか海外ドラマについての知見を持っていることを挙げた。その結果、社員の90%以上はソニーグループ以外から採用した。

もう1つ、採用の基準として重視していたのが、トップ・メディア・ブランドを目指すという目標が共有できることだ。そうして発掘した1人が、滝山雅夫。1999年から2021年まで社長を務め、20年以上にわたってアニマックスを育てた。

 

非カリスマ経営

マネジメントで心がけたのは、マネジメントチームのメンバーの経験やノウハウを最大限に活かすことだ。具体的には、現場のオペレーションや採用などを優秀なメンバーに任せて、細かく口を出さないことにした。中途半端に現場に介入するよりも、思い切って権限委譲した方が、現場の担当者に責任感が生まれるし、担当者が統率しやすくなる。合理的に仕事が進むからだ。現場の知識がなかったからこそ、任せる経営に徹することができたと言っていい。

世の中のリーダーの多くは、こうした「非カリスマのマネジメントスタイル」が馴染むのではないか。これなら圧倒的な実力やカリスマ的な魅力がない人でも、自分の能力以上のものを生み出せる。

 

経営の中核メンバーや現場の社員たちの能力を最大限に引き出すために、経営者は何をするべきか。

 

①ビジョン・目標をはっきりさせ、事業戦略の実現に向けて動く

経営者にとってまず大切なのは、事業のビジョンと目標、その社会的意義と理由を明確にすることだ。ビジョンと目標を明確にした上で、それを実現するための具体的な事業戦略を立てると、効果的な戦略を打ち出せる。

 

②楽しい社風と合理的な組織を築く

面白いアイデアの実現を応援する社内風土をつくる。アイデアを面白がる雰囲気の醸成も重要だが、それ以上に重要なのは、仕事のプロセスが合理的な組織をつくることだ。

 

③現場の判断力を養い、「考える組織」を育てる

現場の判断力を養うための具体的な方法は「質問」をすることだ。「その結論に至ったロジックは何か」「暗黙に認識されていた前提条件は本当に正しいのか」など聞いていく。

 

④理不尽の排除

数字に出ない頑張りも評価するよう管理職の意識に浸透させ、人事制度を構築する。