マシュマロ・テスト
1960年代にスタンフォード大学のビング保育園で行った単純な実験では、園児たちにとっては厳しいジレンマを突きつけた。報酬1つ(例えば、マシュマロ1個)をただちにもらうか、1人きりで最長20分待って、より多くの報酬(例えば、マシュマロ2個)をもらうかの、どちらかを選ばせた。
未就学児たちが待ち続けようとして何をし、欲求の充足の先延ばしにどうやって成功したか、あるいは失敗したかからは、彼らの将来について多くが予想できる事がわかった。4歳か5歳の時に待てる秒数が多いほど、大学進学適性試験の点数が良く、青年期の社会的・認知的機能の評価が高かった。就学前にマシュマロ・テストで長く待てた人は、27〜32歳にかけて、肥満指数が低く、自尊心が強く、目標を効果的に追求し、欲求不満やストレスにうまく対処できた。
マシュマロ・テストとその後の研究から、幼少期の自制能力が以後の人生の展開にとって途方もなく重要である事がわかった。
刺激を冷却する力
魅力的で欲求をそそる刺激には、人を夢中にさせ、興奮させ、動機づける特質がある。一方、刺激が私達に与える影響は、その刺激を私達が頭の中でどのように思い描くか次第で違ってくる。欲しい報酬がホットで目立つほど、それに対する衝動的な反応を「冷却」するのが難しくなる。誘惑のホットな特徴に意識を集中すると、簡単に「ゴー!」反応が引き起こされる。強いストレスもホットシステムを活性化させる。
しかし、自制心を発揮すれば、認知的な再評価によって刺激の影響を「冷却」する事ができる。必要な力は前頭前皮質にあり、この皮質を活性化させれば、ホットで魅力的な刺激を冷却する。前頭前皮質は、思考や行動、情動を調整する。私達は前頭前皮質のおかげで、注意の方向を転換し、柔軟に戦略を変更できる。
マシュマロ・テストでうまく先延ばしができる子どもは、魅力的なお菓子から戦略的に気をそらす方法を思い付いた。彼らはまた、誘惑するもののクールで抽象的で、情報を提供してくれる側面に意識を集中し、想像力を働かせ、ホットな特徴を避けたり変えたりして「冷却」した。
自制心はどのようにして育つのか
年齢はおおいに関係がある。4歳未満の子どもの大半は、先延ばしにし続けられない。誘惑に直面すると、大抵30秒以内にベルを鳴らしたり、お菓子をかじり始めたりする。クールシステムがまだ十分に発達していないからだ。
赤ん坊が発育するにあたり、初期の情動的経験は脳の構造に深くとどめられ、その後の人生の展開に重大な影響をもたらしうる。赤ん坊のストレスレベルが慢性的に高い状態にならないようにし、安心で安全を感じられるように緊密で温かい愛着の形成を促す事が決定的に重要だ。
子どもは2、3歳頃に自分の思考や行動をコントロールできるようになり、このスキルは生後4、5年目で次第に目につきやすくなる。このスキルは、マシュマロ・テストでの成功だけでなく、小学校やその後の人生に適応する上でも、決定的に重要だ。7歳までには子どもの注意コントロールスキルと、その根底にある神経回路は、大人のものと驚くほど似てくる。人生の最初の6年間における子どもの経験は、衝動を調整し、克己心を発揮し、情動の表現をコントロールし、共感や気配り、良心を発達させる能力のおおもとになる。
幼児を過剰にコントロールする親は、子どもが自制のスキルを発達させるのを妨げる危険を冒している。一方、問題解決を試みる際の自主性を支え、奨励する親は、子どもが保育園から帰ってきて、どうやってマシュマロを2個手に入れたかを嬉々として聞かせてくれる可能性を、おそらく最大化している。