データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則

発刊
2014年7月17日
ページ数
256ページ
読了目安
365分
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人間の行動には方程式がある
日立製作所中央研究所で開発されたウエアラブルセンサによって、これまでのべ100万人日以上の行動を計測してきた著者が、そのデータから人間の行動には共通の方程式があることを発見。その実験結果を紹介しています。

人間の活動の限界

人は性格が違ったり、職業や家族の事情があったりと、人それぞれの事情で、生活のパターンは様々である。人によって活動の仕方が異なり、また同じ人でも日によって時間帯によって、多様な活動を行っている。その日、その時間に、あなたがその行動をする事は、あなたの意思と好みで自由になると信じているだろう。

しかし、あなたが1日に使えるエネルギーの総量とその配分の仕方は、法則により制限されており、そのせいであなたは意思のままに時間を使う事ができない。

 

人間の動きは規則的な「U分布」になる。1分あたり60回以上の運動をする事は、1日の半分(1/2)程度だが、1分あたり120回以上の運動をする事は、その半分(1/4)程度に減る。さらに1分あたり180回を超える運動をする事は、さらに半分(1/8)に減る。U分布と同じ形の統計分布は、物質の中での原子や分子の熱エネルギーの分布に発見されている。

 

身体の活動量を増やす事で幸せになる

幸せは、およそ半分は遺伝的に決まっていることが明らかになった。生れつき幸せになりやすい人と、なりにくい人がいるという事である。すべては努力で変えられる、と信じたいところであるが、やはり遺伝は影響している。

遺伝的に影響を受けない残り半分は、後天的な影響である。この後天的な部分をさらに分けると、驚くべき事が発見された。人間関係、お金、健康。これら環境要因をすべて合わせても、幸せに対する影響は、全体の10%にすぎないのだ。

人間は、我々が想像するよりはるかに短時間の内に、これらの自分のまわりの環境要因の変化に慣れてしまう。

残り40%は、日々の行動のちょっとした習慣や行動の選択の仕方による。特に自分から積極的に行動を起こしたかどうかが重要なのだ。自ら意図を持って何かを行うことで、人は幸福感を得る。

 

行動を起こした結果、成功したかが重要なのではない。行動を起こすこと自体が、人の幸せなのである。

幸福な人は、仕事のパフォーマンスが高く、クリエイティブで、収入レベルも高く、結婚の成功率が高く、友達に恵まれ、健康で寿命が長い事が確かめられている。定量的には、幸せな人は、仕事の生産性が平均で37%高く、クリエイティビティは300%も高い。重要な事は、仕事ができる人は成功するので幸せになる、というのではなく、幸せな人は仕事ができるという事だ。

ハピネス(幸せ)と身体活動の総量との関係には、強い相関があることが発見された。つまり、人の内面深くにあると思われていたハピネスが、実は、身体的な活動量という外部に見える量として計測される事がわかった。積極的な行動をとると、人は動きが増えるのだ。

 

時間の使い方は法則により制限されている

人は様々な行動を自分の意思で選択し、1日の中で組み合わせたら、その選択の仕方により、動きの統計分布は異なるはずだ。しかし、違う仕事を持ち、性別も年齢も異なる人達のすべてが、U分布に従って24時間、行動している。

我々は、1日の活動時間約900分を生きる中で、約7万回の腕の動きを、各1分1分に配分している。もし、我々の各時点での行動の種類がランダムに決まるとしたら、その配分は正規分布に従う。しかし、腕の動きは1日約7万回と総数がおおよそ制約されている中で、我々は腕の動きを優先度に合わせて調整している。例えば、午前は活動量を抑えて、午後の顧客への提案に全力投球する事がこれにあたる。

 

腕の動きという有限の資源を、優先度の低い時間には温存し、優先度の高い時間に割当てる。これを無意識の内に、もっと細かな行動の調整を無数に行っている。その証がU分布なのだ。

宇宙のあらゆる変化は、エネルギーのやりとりで起きている。「意思」や「好み」を持つ人間の行動も例外ではない。人間の行動が資源のやりとりの法則に支配を受けるとなると、時間の使い方に厳しい制約をもたらす。U分布は、一方向に右肩下がりなので、身体の動きが活発な行動を、静かな行動よりも長時間行う事は許さない。U分布では、より素早い行動の時間は、より静かでゆったりとした行動よりも常に少ない時間しか許されない。

 

つまり、我々が1日のToDoとその各項目の時間配分を、自分の自由になると思っているのは全くの幻想である事もわかる。1日の総活動量が決まると、ある帯域の動きを伴う活動に割当てる事のできる活動予算も決まり、それを超えたバランスの時間は使えないのである。活動予算を使い尽くすと、それ以上その活動ができなくなる、あるいはやりたくなくなると推測される。それでも無理してやろうとすると、結局寝てしまったり、集中できなかったりしているのではないか。予算がない中で、無理をしてその活動を続けるというのが「ストレス」の大きな要因なのかもしれない。

 

人の活動がU分布に従い、身体の動きという有限の資源の制約を受けるというのは、我々の活動が自然法則の見えざる手の支配下で行われているという事だ。

もし自由意思で本人が自分の活動を選択できるならば、活動効率は100%まで向上できる。しかし、人間の活動が熱力学に従うとすれば、この活動効率はある上限に制約される。