ベンチャーキャピタルとは
スタートアップというのは、成功するかわからない、ハイリスク・ハイリターンのビジネスだ。もし首尾よくいけば100億円、1000億円という価値のあるビジネスになるかもしれないが、一方で一度も黒字にならないまま会社を畳むこともあり得る。こうした不透明なビジネスにリスクマネーを供給するのが、ベンチャーキャピタル(VC)の役割だ。
VCは、投資先のスタートアップから株式の一部をもらい受ける。スタートアップが成長していくにつれ、会社の価値も高まっていき、それに合わせて株式の価値も高くなっていく。そして将来、そのスタートアップが株式上場をしたり、高値で買収されることがあれば、VCはその株式を売ることで大きなリターンを得る。
「私たちは、お金を右から左へ動かすだけの、金融ビジネスをやっているんじゃない。新しい会社をつくるという、カンパニービルディングのビジネスをやっているんだ」。スティーブ・ジョブズや、多くの伝説的なスタートアップを支えたドン・ヴァレンタインは、VCの仕事をそのように語っている。
VCは単なるマネーゲームをやっているわけではなく、イノベーションを加速させるための熾烈な付加価値競争をやっている。そのためトップVCの投資家たちは、自分自身もかつてスタートアップの起業で成功した経験であったり、ビジネスの修羅場をくぐり抜けた実務経験を持っているベテランたちが圧倒的に多い。
スタートアップ投資の秘訣
世の中で大成功する起業家を見つけてきて、そこにお金とビジネスを加速させるアドバイスを提供するのは、並大抵のことでは務まらない。スタートアップ投資とは直感やインスピレーションが大切で、いわゆる「目利き」によって、起業家たちのプレゼンテーションを選別すれば、新しいイノベーションの種を見つけられると誤解されている。VCはギャンブルではない。実は究極の情報産業であり、圧倒的な寡占構造を持っている。
アメリカだけで8000社を超えるようなVCの中でも、トップ1%のVCが「勝ち組」として、キングメーカーの座に君臨し続けている。実はシリコンバレーでもトップティアと呼ばれる実績をほこる投資家の顔ぶれは、長年にわたって驚くほど変わっていない。
そこでは次のアップルやグーグルになるようなメガベンチャーたちを、繰り返し探し当てることができるリサーチ能力と、投資枠を確保できる付加価値の提供、資金力を持った投資家たちがおり、そのノウハウを口外することはない。
例えば、シリコンバレーの名門VCであるセコイア・キャピタルは、圧倒的なブランド力とネットワークによって勝ち馬に仕立て上げた起業家たちがどう成功したのか、勝ちパターンを裏側からウォッチして、また次なる勝ちパターンを呼び寄せていく。
そしてセコイアから出資を受けたというニュースが出回ると、このスタートアップは勝者になる可能性が高いという強烈な合図になる。だからシリコンバレーで活躍するトップクラスのエンジニアたちから、次々と応募が集まってくる。ウーバー、フェイスブック、マイクロソフトなどで要職に就いていたキーマンたちが、そのノウハウごと、創業まもないスタートアップに持ち込んでくるのだ。
VCには、イノベーションは仕組みによって作れるのだという戦略とビジョンがある。彼らはリスクを伴う、新しい技術やビジネスモデルについてよく理解した投資家でありながら、投資先を急成長させるため、独自の付加価値を提供している。
成功したVCと失敗したVCはどのように生まれるのか
スタートアップ投資の成否は、市場を席巻するような巨大なビジネスを生み出してくれる「ホームラン案件」を当たられるかにすべて懸かっている。ユニコーンやデカコーンに化けるような、ダイヤの原石が投資ポートフォリオに入っていなければ、そのファンドは成功できない。
なぜならスタートアップへの投資のリターンを分析してみると、極めて少数のスタートアップたちが巨額の企業価値をほこるようになる一方で、大部分のスタートアップたちは小粒か損失に終わるからだ。
VCの運用成績を、横軸にファンドの数をとり、縦軸にそのリターンの大きさを表したとすると、「ロングテール」のカーブに散らばる。これは少数のトップファンドが、ほとんどの利益を手にしているという事実だ。VC産業というのは、このロングテールが支配しているビジネスであり、多くが中間的な平均のパフォーマンスに集約されるベルカーブでは全くない。
トップ投資家たちは、特大ホームランを繰り返している。彼らの投資戦略や哲学、起業家への考えを聞けば、決してその大当たりが偶然ではないことがわかる。それぞれ独自のメソッドで、ホームランを打ち続けるための何かを、必ず手の内に持っているのだ。