海底撈 知られざる中国巨大外食企業の素顔

発刊
2022年1月26日
ページ数
192ページ
読了目安
245分
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世界第3位の外食チェーンの競争優位とは
マクドナルド、スターバックスに次いで、世界の外食産業の中で3位に位置する中国火鍋チェーン最大手「海底撈」の経営とマネジメントを紹介している一冊。コンビニのように店舗が溢れる火鍋業界において、なぜ海底撈が圧倒的なトップに昇りつめたのか。他社では真似できないサービスと社内育成システムの仕組みを解説し、その競争優位の源泉とは何かが書かれています。

中国火鍋チェーン最大手「海底撈」

海底撈は、1994年に中国四川省成都市の南方に位置する地方都市、簡陽の街で、張勇氏が設立した四川風火鍋チェーン店である。中国国内で1500以上の店舗(2021年11月現在)を構え、シンガポールをはじめとする東南アジア各国、アメリカ、イギリス、日本を含むグローバル市場でも多数の店舗を展開する、中国火鍋チェーン店の最大手である。

「顧客至上」「サービス至上」を理念に掲げて、レストランのスタッフによる至れり尽くせりのサービスで顧客満足度を高め、人気を博している。各店舗の食材の鮮度を確保するために、中国国内各地ではグループ会社が運営する物流センターを構え、火鍋のベーススープの味を標準化するために専用スープ製造工場も複数運営している。海底撈は年間2億人を超える顧客にサービスを提供している。

 

火鍋業界は、中国外食産業の中で、最大シェアを占めるカテゴリーであるが、競合するプレイヤーの数は最も多く、競争が最も激しい市場環境である。人口当たりでは、中国の火鍋店は、ほぼ日本のコンビニと同じくらいの多さで全国にひしめき合っている。

 

徹底したサービスで差別化を図る

初めて海底撈の店を訪れた人は、まず中国では珍しいその過剰と感じるほどの接客サービスを受けて驚く。待たせている客を飽きさせないための無料の靴磨きやネイルサービスがあり、入店を待っている客にはフルーツやスナックが振る舞われる。待合ホールでは、海底撈の店舗限定の参加型スマホゲームで遊べたり、中国将棋や各種ボードゲームも無料で貸し出されたりしているので、入店を待っている間に退屈することはない。来店客の期待を上回る海底撈のおもてなしを、中国では賛嘆の念を込めて「変態級接客サービス」と呼ばれている。
この他、火鍋に入れる火鍋麺を注文すると、店員が客のテーブルの前でカンフーダンスを演じながらその場で麺をつくりあげてくれる。また、四川省の伝統芸能「変面」も店内で観られるなど、高いレベルのエンターテインメント性も兼ね備えている。

 

海底撈では、他の外食企業が簡単に真似できないサービスを顧客に提供している。それは、店の規定やルールに決められたサービスだけでなく、海底撈の店員が心の底から自発的に顧客を喜ばせようとしているからだ。
海底撈が差別化された柔軟なサービスを提供できる1つの大きな要因は、海底撈の現場への権限委譲と社員育成システムの成果にある。また、従業員一人ひとりを大切にする「人間重視」の企業文化の産物でもある。これらの結果、海底撈は競合相手が真似できない独自のサービスを提供できる集団に進化していき、中国での外食トップ企業に昇りつめた。

 

開業当初は、本場四川の競争は熾烈で、新参の張勇氏たちの商売は鳴かず飛ばずで、毎日どうやってその日を生き延びるかを考えることで精一杯だった。その張勇氏が、苦しい中で手にしたのが、松下幸之助の本だった。そして、学び、気づいた。経営とは、お客を満足させること。そして従業員を大切にすること。この2つをしっかりと押さえていれば、事業はうまく立ち行くと思った。張勇氏は、目指す顧客満足が実現できるまでは、決して妥協しなかった。

海底撈の「変態級接客サービス」は、典型的な一人っ子世代で、個性を大事にし、自分のフィーリングにあった消費をする傾向がある九〇后(90年代生まれ)に幅広く支持されている。ホールスタッフたちが、それぞれ徹底的に顧客に寄り添い、お客のかゆいところに手が届くコンシェルジュ的な給仕を次々と繰り出すおもてなし攻勢だ。この手厚いサービスに慣れてしまうと、次から他の火鍋店に行こうという気持ちにならなくなるのだ。

 

貧しい農村出身者に機会を与え、競争させる

海底撈の店員は、同じ九〇后でも立場が全く違う。中国の農村に生まれた苦しい運命を変えるために、貧しい境遇から這い上がるために、必死の努力を続ける。

海底撈ではとにかく社員を競わせる。社内競争はPKという名の企業文化を形成している。海底撈では社内の多くのポジションが公募で選ばれる。やる気があれば誰でもエントリーできる。どのポジションでも競争に次ぐ競争が続く。社員も昇進と生き残りを賭して熾烈な競争を続ける。

 

海底撈を語る上で絶対に欠かせないキーワードは「自分の両手で自分の運命を変える」だ。この言葉は海底撈社内のスローガンになっている。海底撈は、学歴不問、戸籍不問、性別不問、ただ本人のやる気だけを問う。「運命を変える」とは、全く異次元の昇進ことを指す。店員からマネージャーを経て店長までの昇進だ。店長になれる夢と可能性があるから、毎日の足元の仕事は厳しいものの、苦労に耐えながら、希望をもって全力を尽くして取り組むことができる。