問題の上流を考えよ
上流活動とは、「問題を未然に防ぐための活動」や「問題による被害を計画的に減らそうとする活動」のことだ。「下流」活動は問題が起こってから事後的に対応するのに対し、「上流」活動は問題を未然に防ごうとする。
私たちは問題が起こっては対応するというサイクルに陥りがちだ。そして、問題にただ対応するだけの状態が続くと、「問題を防止できる」ことを忘れてしまう。
問題に事後対応するのではなく、問題がそもそも起こらない世界で暮らしたいのは誰もが望むことだが、なぜそれができないのだろうか?
上流の解決策は望ましい反面、複雑でわかりにくいという難点がある。下流活動が焦点がはっきりしていて、迅速で、具体的なのに比べ、上流活動は多面的で、ゆっくりしていて、つかみどころがない。それでも、うまくいく時は莫大で長期的な効果を実現できる。
上流思考を阻む3つの障害
①問題盲
悪い結果は当たり前、または避けられない、自分にはどうすることもできない、という思い込み。見えない問題は解決できない。そして問題が見えないせいで、大きな害がおよびそうな時でさえ、どうしようもないと諦めてしまう。
上流に向かうには、まず問題盲を克服しなくてはならない。改善は不満足から生まれる。続いて仲間探しが始まる。そして、同じように感じている仲間がいるという気づきが力になる。
②当事者意識の欠如
問題を解決できる立場にある人が、それを解決するのは自分ではないと思ってしまうこと。上流活動は、とても重要な取り組みなのに、必須ではなく任意であることが多い。そのため、誰かが当事者意識を持ってその活動をすると決めなければ、根本的な問題はいつまで経っても解決しない。
問題が当事者を失ってしまうことがあるのには「利己主義」や「責任の細分化」「心理的適格性(自分には問題に対処する資格がないという思い込み)」が妨げになる。
当事者意識を持たせるのは「その状況を招いた全責任が自分にあると考えたらどうなるか」という問いを投げかけることだ。そうすれば、無関心と惰性を乗り越え、自分にできることを見つけられるかもしれない。誰かに要求されたからではなく、自分に解決できるから、解決する価値があるから、解決することを選ぶ。
③トンネリング
小さな問題が大きな問題を締め出してしまうこと。人はたくさんの問題で右往左往している時、すべてを解決することを諦める。視野が狭まってしまう。長期的な計画を立てることも、戦略的に問題を優先順位づけすることもしなくなる。トンネリングのせいで、目先優先の反射的思考にとらわれてしまう。
トンネリングを起こしている人は、システム全体を考えることができない。問題を防ぐことができず、起こった問題に対応するだけになる。これはお金や時間がない人に起こる。
トンネルから脱するには「ゆとり」、つまり問題を解決するための時間的、金銭的な余裕が必要である。
「上流リーダー」になれる7つの質問
上流介入を成功させるためには「7つの重要な問い」に答えなくてはならない。
①しかるべき人たちをまとめるにはどうしたらよいか?
上流活動の第一歩は、共通の目的の下に結ばれた多分野の人々や組織の集団をまとめること。この際カギとなるのが、切実で有意義な目標だ。何かを発見したり進捗を測定したりするのにはデータが役立つ。
②システムを変えるにはどうしたらよいか?
上流活動とは、問題が起こる確率を減らすための取り組みをいう。それゆえ上流活動は最終的にシステムや制度の抜本的な変革をもたらすものでなくてはならない。システムを変革するとは、人々に課されたルールや、人々に影響をおよぼす価値観や風潮を変えるということだ。そのためには時間がかけて、環境を整える必要がある。
③テコの支点はどこにあるのか?
システム変革を目指すために最初にすべきことは「テコの支点を探す」ことだ。有効な支点を探すには、まず防ごうとしている問題の「危険因子」と「防御因子」を考えるとよい。どんな問題にも、リスクを高めたり防いだりする要因があり、それらの1つがテコの支点になる可能性を秘めている。
④問題の早期警報を得るにはどうしたらよいか?
問題を早く予見できれば、その分対処する時間的余裕が増える。問題を予知するには、状況を知るための「目と耳」が環境内になくてはならない。
⑤成否を正しく測るにはどうしたらよいか?
「成否を測る方法」と「実際に目指す結果」とが一致しないせいで、失敗を覆い隠す表面的な成功に惑わされてはならない。
⑥意図しない害をおよぼさないためにはどうしたらよいか?
未来を正確に予測することでは成功できない。成功の鍵は、道を知るために必要なフィードバックを確保することにある。
⑦誰が「起こっていないこと」のためにお金を払うのか?
予防活動を促すためには、費用負担の方式を必要に応じて切り替える方法も考えなければならない。