人間はどうやって不安をつくり出しているのか
「不安の原因」をいくら追及したところで、不安な気持ちが解消されることはない。人間の脳は、次のようなメカニズムで私たちに指令を出す。
「未来イメージ」→「脳内シュミレーション」→「脳からの指令の発動」→「実際に身体の状態が変わる」
人間は、まだ起きてもいない「先のこと」(未来)を想像することで、不安を感じてしまう。「未来がどうなるかわからない」から不安になる。逆に言えば、「こうなるだろう」とわかっていることに対しては不安を感じない。
起きていない未来をイメージすることで不安が生み出されるということは、イメージする未来が良いものであれば、今の自分にとっての「いい状態」が生み出される。本当の自分のあるべき姿、自分の進むべき方向が見えれば、明るい未来をイメージできる。「脳のメカニズム」によって、不安もなくなる。
まず「理想の自分」をつくり、伴走してもらう
まずノートとペンを用意し、ノートに「自分の変えたいところ」を3つ書き出し、次の質問に答える。
- それはどんなことですか?(行動)
3つの「変えたいところ」の内の1つを取り上げ、具体的にどんな行動をしているのかを書き出す。 - それはどんな気分になりますか?(状態)
気分とは、自分の内面の状態である。 - 本当はどうしたいのですか?(行動)
自分の理想の行動を書き出す。 - それができていたら、どんな気分になりますか?(状態)
理想の行動がとれている自分は、どんな気分なのかを想像する。
この質問1〜4の作業を、3つ挙げた「自分の変えたいところ」1つ1つについて行う。そこに書かれた自分が、自分のなりたい姿であり、「理想の自分」ということになる。
この「理想の自分」を、自分を変えるためにどのように使うか?
理想の自分の使い方がうまい人は、自分の可能性を広げ、今の自分を変えていくことができる。一方、理想の自分の使い方がうまくない人は、自分の可能性を閉じてしまい、いつまでも変わらない自分のままである。
人は「先の見えないこと」「ネガティブな未来」に対して、不安を感じる。そして「人間のメカニズム」によって、身体に反応が起こる。「理想の自分」を見て、そこに今の自分との大きなズレを感じたら、その瞬間に身体に反応が起こる。「どうしよう、どうなるんだろう」と、緊張状態になる。
理想の自分を上手に使っている人は、「理想の自分」を「今の自分」の味方にしている。彼らは、理想の自分を、自分の「メンター」「コーチ」として、今の自分をサポートさせている。
人間には「ミラーニューロン」と呼ばれる、周囲の人の言動を無意識の内に模倣してしまう神経細胞がある。この「ミラーニューロン」は「理想の自分」との関係性でも同じことを起こす。つまり、理想の自分にメンターとなり伴走してもらうことで、理想の自分の立ち振る舞いが今の自分に転写される。
不安が覚悟に変わる心の鍛え方
①「不安」から「安心」へ
メンターである「理想の自分」は、「先が見えない」「どうなるんだろう?」といった不安な気持ちに共感する。自分に質問をして、自分で答える。これまで言えなかったことを素直に言う。メンターの「理想の自分」はそれを理解して共感する。過去の自分の「本当は言いたかった」「本当はこうしたかった」という思いに対して丁寧に共感してあげる。こうすることで、自分の中に「安心」と言うメンタルが芽生える。
②「安心」から「自信」へ
「不安」から「自信」は生まれない。まずは「安心」のフェーズに入ってから、初めて「自信」というメンタルを生み出せる。
「自信がない」とは「よりどころ」がないということ。成果や能力ばかりに意識を向けていると、上には上がいるという気持ちになる。自信を持つためには、成果や能力ではなく「価値観」をよりどころにする。そのために「理想の自分」が価値観をきちんと抽出して、相手に伝え返すという自己対話が重要である。
③「自信」から「勇気」へ
困難な状況に立ち向かう時、人は「勇気」を出す。しかし、私たちは意外と、自分が困難な状況にいるということを自覚していない。この困難な状況を乗り越えた自分を思い出せば、勇気を取り戻すことができる。
私たちが困難な状況に立ち向かい、乗り越えた時には、必ず何か自分の「考え方」を変えているはずである。そのブレイクスルーのタイミングをしっかり抽出することが、理想の自分との対話で極めて大事である。
④「勇気」から「覚悟」へ
人は誰でもいくつかの価値観を持っている。但し、そこには優先順位が存在する。価値観の広がりの基軸元となる価値観「コア・バリュー」(エネルギーの源泉)という。これに「強み」(磨いてきた武器)を組み合わせたものが、「あるべき姿」である。コアバリューと強みを持った自己の姿を対話の中から生み出す。この2つを携えると「覚悟」の人になる。