SaaSを成長させる新しい戦略
商品の購入を決める際、事前にそれを試すことは、これまでも、これからも大事なプロセスだ。そして、ソフトウェアにおいても同様のプロセスが求められている。今後、SaaS市場が進化するにつれ、企業は次の2つのタイプに分かれていくだろう。
①セールス主導型カンパニー
従来の売り方。売る商品は複雑で、必ずしも必要とは限らず高価。購入してもらえるかどうかは、消費者をいかに説得できるかにかかっている。
②プロダクト主導型カンパニー
見込み顧客を長く決まったセールスサイクルに乗せようとするのではなく、かわりにプロダクトを自分で試せる「鍵」を与える。おかげで、いかに有料プランへのアップグレードを促すかといったことに頭を悩ませる必要はなくなり、ユーザーにより便利なサービスを提供するための改善に注力することができる。
今の時代、強いブランド力と社会的信用だけでは、消費者からの信頼を勝ち取ることはできない。購入してもらう前に、プロダクトを試せる権限を与える必要がある。プロダクト・レッド・グロース(PLG)は、それを実践可能なビジネス戦略に落とし込んだ手法だ。
PLGとは、米ベンチャーキャピタルのオープンビューが名付けたGTM(Go To Market)戦略の1つで、ユーザー獲得、アクティベーション、リテンションをプロダクトそのものが担うという手法だ。スラックやドロップボックスを利用したことがあるなら、既にPLGを体験しているはずだ。PLGは一見すると、購入前にプロダクトを試すというシンプルなビジネスモデルだが、SaaSビジネスを成長させる新しい戦略である。
SaaSビジネスにおける3つの変化
①SaaSビジネスにおいて市場への参入障壁が下がり、顧客獲得に以前より多くのコストがかかるようになった
②顧客は自ら学ぶことを好むようになった
③購入プロセスで、プロダクトの利用体験が重視されるようになった
PLGを導入する企業に営業担当者はいらないという意味ではない。新しいユーザーをプロダクトの購入まで導く役割は、プロダクトが担った方が良いということだ。SaaSビジネスを成功させるためには、この3つの変化に立ち向かうことができるGTM戦略が必要となる。
最適なGTM戦略を選択するためのフレームワーク
プロダクト主導型のアプローチは、単に購入前にプロダクトを試せるオプションを追加すれば良いというものではない。フリートライアル、フリーミアムモデル、デモのどれが自分のビジネスに合うのかを見極める必要がある。そのための意思決定フレームワークが「MOATフレームワーク」である。
M:マーケット戦略
自社のGTM戦略はドミナント型戦略か、ディスラプティブ型戦略か、または差別化型戦略か?
ドミナント型戦略は、競合他社と比較して、サービスのレベルが高く、かつ安い価格で提供できる場合に最適である。ドミナント型戦略では、フリーミアム、フリートライアルいずれも、伝統的なセールスモデルと比べると効果がある。
差別化型戦略では、競合他社よりも優れた特定の機能を、高い価格設定で提供することが求められる。ユーザーを問わない画一的なプロダクトとはならない。差別化型戦略は、フリートライアルやデモとの相性が良いが、その市場規模の限界とプロダクトの複雑性から、フリーミアムモデルだとうまくいかない場合が多い。
ディスラプティブ型戦略は、特定の市場では、既存のサービスが過剰だと感じている顧客を対象とする。ディスラプティブ型戦略にはフリーミアムモデルが適している。価格を低く抑えることで、既存ソリューションを使っている見込み顧客を惹きつけられる。
O:オーシャン状況
自社のビジネスはレッド・オーシャンか、ブルー・オーシャンか?
ビジネスがブルー・オーシャンにあり、新たなニーズを生み出しているなら、プロダクトを理解してもらうまで時間を要する。そのため、セールスやマーケティング主導型のGTM戦略を取り入れる企業がほとんどである。
レッド・オーシャンでは、見込み顧客はプロダクトの活用方法・価値を理解しているので、PLGモデルが優位性を持つ。
A:オーディエンス
自社のマーケティング戦略は、トップダウン型か、ボトムアップ型か?
プロダクト価格は以前と比べかなり安価になり、マネジメント層がすべてのプロダクトの購買判断を下すかわりに、現場の従業員が同等の意思決定権を持つようになった。ボトムアップ型の販売戦略においては、導入の早さとプロダクトのシンプルさが求められる。この場合、フリートライアルかフリーミアムモデルが機能する場合が多い。
T:タイム・トゥ・バリュー
自社のプロダクトは、どれくらい早くユーザーにプロダクト価値を示すことができるか?
プロダクトの価値を素早くユーザーに訴求できないのであれば、PLG戦略は適さない。