謙虚に問いかける
話す事より問いかけること。これは人付き合いにおいて最も根本的なものであり、それはいかなる場面においても当てはまる。相手に何を聞くか、いつその質問を持ち出すか、問いかける時にどういう態度で臨むべきか。これらはすべて、人と付き合い、コミュニケーションを深め、物事をうまく進める上で鍵となる要素である。
人と人が関係を築くプロセスは入り組んでいる。会話の中でつい失言してしまう事もあるし、後になって「ああ言えば良かった」と思う事が出てきたりする。いずれも、自分の言い分を伝える事と相手の話を聞く事のバランスを取る中で混乱し、つい自分の話を優先してしまう事によって起こる。大抵の場合、自分では思い当たらなかった事を相手から教えてもらえるような質問をするという心がけや好奇心といったものが、会話の中で忘れられているのだ。
良好なコミュニケーションには信頼関係の構築が不可欠で、信頼関係の構築には「謙虚に問いかける」事が求められる。
謙虚に問いかけるとは
私達はまず3つの事を自分に言い聞かせなければならない。
①自分から一方的に話すのを控える
②「謙虚に問いかける」という姿勢を学び、相手にもっと質問するように心がける
③傾聴し、相手を認める努力をする
相手に何を尋ねるかという事と、謙虚に問いかける事は、人と人が信頼関係を築く上で、究極的にはその土台となる。
私達はとかく自分がしゃべる事に一生懸命になる「自分が話す文化」の中にいるので、相手に質問するのが上手ではない。ましてや謙虚な姿勢で聞くとなると、特に難しい。社会学的に見ると、質問せずに一方的に話す事は、相手を上から見下ろすような格好になるのだ。つまり、「あなたはこの事を知っているべきですが、まだご存知ないでしょうから教えてあげましょう」というのを言外に含んで示唆しているに等しい。
一方で、質問するという行為は会話の相手に力を与えると同時に、一時的に私達を弱い立場に置く事になる。私が知りたかった事、あるいは知る必要がある事について、相手は何らかの情報を持っているのだという事が示唆されるからだ。つまり、その人が会話の方向付けを行う事になるので、私の事を助ける事もできれば傷つける事もできる。このような状況が、人間関係を築くための扉を開いてくれる。
「謙虚に問いかける」は、チェックリストに従って行動したり、あらかじめ用意された質問の通りに聞いたりするのではなく、あくまでも相手を思いやる気持ちや純粋な好奇心、会話の質を高めたいと望む気持ちから生まれる行為である。それは互いにもっと心を開いて仕事に関連した情報を共有するように奨励する事によってなされる。
問いかけ方
「自分ばかり話すのではなく、これからはもっと相手に問いかけよう」と単に思うだけでは不十分である。「謙虚に問いかける」を実践するには、まずは謙虚な態度を保つ事から始めなければならない。その上で、実際にどのような質問を選択するかを決める。自分の期待や先入観をはさむのではなく、相手に対して興味を持つようにすればするほど、適切な質問をする態勢を維持できる可能性は高くなる。
人間は繊細な生き物なので、いかに質問を取り繕っても、本気で興味を持っていないのなら、それは相手に伝わる。謙虚な姿勢で尋ねようとしている時は先入観を排除し、頭の中をすっきりとさせて会話を始め、相手との話が進むにつれて自分はなるべく聞く事に専念するように心がける。
あなたが興味を持ってくれているかどうかを相手が判断する最大の決め手は、どんな質問をされたかという事だけではない。どれくらい熱心に聞いてくれたかというのも決め手になる。会話が続いていくと、なぜあなたがその人に関心を持ったのか、どのような姿勢でいるのかという事が、その先々のあなたの質問から透けて見えるようになる。