人間主義的経営

発刊
2021年3月26日
ページ数
288ページ
読了目安
271分
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利益だけを追求しない経営の考え方
イタリアのファッションブランド「ブルネロ・クチネリ」の経営理念が紹介されています。イタリアの伝統的な価値観を大切にすることで、適正な成長、適正な利益のもとで、人間を中心とした資本主義を目指して経営される考え方が示されています。
行き過ぎた資本主義とは異なる思想の経済の考え方が書かれています。

人間のための資本主義とは

ブルネロ・クチネリは、1978年、色鮮やかなカシミヤセーターを製造する小さな会社を立ち上げ、事業の目的を、倫理的にも経済的にも人間の尊厳を追求することと定めた。1982年、ウンブリアの小さなソロメオに移り、そこを「人間のための資本主義」を実現する場所と定めた。3年後には廃墟となっていた村の古城を買い取り本社とした。2000年、村外れの古い工場を買い取り、そこを改修して事業の拡大に合わせて新たな生産体制を整えた。2012年、ブルネロ・クチネリ社はミラノ証券取引所に上場した。同年、若者たちが技術を身につけ誇りを持って働くことを願い、本社のある城の一角に職人学校を設立した。

 

人間の尊厳と自然との調和を事業の目的に掲げる、ブルネロ・クチネリの「人間のための資本主義」は、イタリア国内の限らず広く海外からも注目され、数々の賞を受賞している。

ブルネロ・クチネリの目指すものは経済と倫理の両面における人間の尊厳であり、その旅路を導くもとにあるのは、美を大切にすること、年齢を重ねた人やものと未来の世代をつなぐこと、愛のある豊かさ、本当に偉大なものは簡素であるという考え方である。こうして自然と人間と夢への志を尊重することから「正しい労働」という概念が生まれた。これが「人間主義的資本主義」である。

 

常に人間の利益を考える

天の創造物である自然を痛めず、可能な限り自然への負荷を小さくする。そのように生産されたものにこそ貴重な価値があると考えていた。思い描いたのは消費者と生産者の双方にとって価値のある手作りの製品、美しい労働環境、リラックスできる快適な休息時間、手仕事の価値が隅々まで行き渡った会社の文化だった。

誇りを感じて穏やかに生きていくためには、互いを敬い、真実を重んじる人間関係と、経済的に十分な所得が必要だと考えていた。そのためには創造性を育む静謐な職場環境が必要だった。倫理、尊厳、道徳と一体化した利益を生み出すこと、利益と贈与の均衡に実体を与えること。それは天の創造物に対してささやかな番人になることだと考えた。

 

15歳の時に、現代的な色彩を特徴とする女性用のカシミヤセーターを作ろうと決めた。このコンセプトは非常に新鮮に感じた。高度な手仕事と職人技に支えられたイタリアらしい服、最高級の市場セグメントに的を絞り、高価ではあるが価格以上の価値を持つ製品を作る。そんな考えが明確になっていった。

 

人間や自然を傷つけ攻撃せずに利益を生む資本主義、人間の原点と歴史に根ざした資本主義。「人間のための資本主義」という構想の一部は、村人の生活を改善するための施策として具体化していった。指針となった考えは、常に「人間の利益」であり、すべての生産のプロセスを人間中心に組み立てる、という方法だった。人間をないがしろにして品質は保てないのは明らかであり、この方法こそが、利益を生み、人間の尊厳を回復する経済のあり方だと考えた。

 

適正な成長と適正な利益

会社の名前は次第に世間に知られるようになり、仕事は広がり、会社は成長した。成功の理由の1つはメイド・イン・イタリーのカシミヤ製品が革新的で現代的であったこと。もう1つは人間の尊厳、哲学的ビジョン、人類に向けたプロジェクトというメッセージが人に伝わったことだった。伝統の価値を守り、未来につなげる事は、もはや全員の意思となっていた。

 

小さな村の修復作業が一旦完了し、中世の城で和やかな雰囲気に包まれて快適に働き、村民の生活の質は向上した。会社では、ブルーカラーとホワイトカラーの給与の差がなく、世間の平均よりも少し高く、高い技術を持つ職人はそれよりさらに少し高くあるべきだと考えていた。3ヶ月ごとに株主が集まり、事業の全体から細部まで、どんな小さなことも分析し検討した。例えば、ウンブリア州の郷土料理を提供するレストランでの昼休みも大切にしていた。出勤のタイムカードはなく、朝は全員8時に工場に入り、仕事は5時半に終了する。それが普遍的で正しい人間の労働の姿だと考えている。

 

その土地に住む人々に敬意を払いながら、土地の持つ潜在力を守り、引き出し、育てていくことを大切にしている。その思想が均衡の取れた希望の持てる成果を上げ、その利益を人々に還元するという倫理的な目的を具体的な形にしてくれる。

適正な成長と適正な利益という考え方によって、「人間のための資本主義」を実現するという夢を少しずつ形にしつつある。「人間のための資本主義」とは、結局、人間という強固な基礎の上に普遍的な経済活動を統合していく試みである。