人事の組み立て ~脱日本型雇用のトリセツ~

発刊
2021年4月1日
ページ数
260ページ
読了目安
450分
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推薦者

雇用制度を正しく設計するための正しい人事制度の考え方
ジョブ型雇用とは何か。本来の欧米の雇用システムと日本の雇用システムの違いを解説しながら、人事制度の本質を解説。欧米の人事制度を表面的に取り入れるだけでは、多くの日本企業が抱える問題は解決しないと説き、どのように人事制度を設計すれば良いかを書いています。

日本と欧米の雇用システムの違い

欧米の人事制度は職務主義であり、日本の人事制度は職能主義である。それぞれには大きな違いがある。

 

・職務主義(欧米型):職務にピッタリな人材を任用する

ポストに応じて給与が決まる。ポストには定員がある。

 

・職能主義(日本型):個人の能力に合う職務を用意する

ポストではなく個人の等級で給与が決まる。等級には定員がない。

 

ポストとは本来「どのような仕事をする人が何人必要か」という意味で設けられたものである。「ポスト=職務=賃金」となるのが人事管理上の当たり前である。しかし、日本では、1つのポストに多職務・多賃金が入り交じり、それを職能等級で管理してきた。同じポストなのに、「役割給」や「職責給」によって、給与も職務も異なる人材が混在する。

 

職能主義に起きて、職務主義では起きづらいのが、総人件費の上昇である。職務主義では、ポストの定員が増えない限り、給与は頭打ちになる。しかし、職能主義では、企業規模が変わらいままでも、個々人のランクアップにより総人件費が上昇する。

だが、欧米のように「ポスト=職務」に変えてしまうと、今度は定員問題が生まれる。ポストが一杯だからもう出世できないことで、能力アップした人が他社に流出したり、出世を諦めたやる気のない社員ばかりになりかねない。

人事制度には、一長一短があり、メリットとデメリットのトレードオフで成り立っている。

 

欧米型雇用のメリットとデメリット

日本型の「無限定な働き方」は、「易しい仕事から始めて、慣れたらだんだん難しい仕事に入れ替える」というものである。結果、知らない間に習熟を重ね、給与も職位も上がっていく。キャリアの無限階段が作られる。

一方、欧米のジョブ型労働は、ジョブとジョブの間の敷居が高く、企業主導で無限階段を容易には作れない。キャリアアップの方法は、やる気のある人がジョブとジョブの間の敷居を職業訓練などで乗り越えるか、一部のエリートが自分たちのために用意されたテニュアコースを超スピードで駆け上がるかのどちらかである。多くの一般人は、生涯にわたって、職務内容も給与もあまり変わらない。

 

その結果、日本と欧米では労働観が大きく変わってしまう。日本では「誰でも階段を上がって当たり前」という考え方が、働く人にも使用者にも常識となり、「給与は上がって当たり前、役職も上がって当たり前」(労働者側)、「入った時と同じ仕事をしてもらっていては困る。経験相応に難易度は上がる」(使用者側)となる。

一方、特に欧州では、例外的なケースを除けば、事務で入った人は一生事務をやる。経営管理に関しては、グランゼコールや大学院などでそれを学んだ人が就き、入社した時から「管理の卵」としての扱いを受ける。

同じ仕事を長くしていれば熟練度は上がり、同時に倦怠感も高まるという2つの理由で労働時間は短くなる。そのため、ドイツやフランスでは残業はほとんどなく、年間40日もある有給休暇も完全に消化する。この欧州型の「300〜500万円」で働く人こそ、本当の意味でジョブ型労働者と言える。

 

欧米型雇用の問題は、スキルは未熟なのに賃金は熟練者と大して変わらない若者の失業率が高くなることと、一部のエリートのみモチベーションが高く猛烈に働くが、それ以外の大多数はやる気がないことである。

こうした2つの大きな問題とトレードオフで、メリットが生まれる。低モチベーションのジョブワーカーたちは、短時間勤務と潤沢な休暇で、ワーク・ライフ・バランスが充実する。また、年収が変わらず大きな昇進もないために、会社を変えもて、長期休暇をとっても、「後輩に抜かれる」ということがないため、転職や休職にためらいなく踏み切れる。

 

日本型雇用が生み出す問題

日本は原則として、誰もが階段を上がり、職務難易度と年収を上げていく構造にある。その結果、欧米とは真逆の問題が生じる。

 

①ワーク・ライフ・バランス問題:誰もが階段を上れる代わりに、頑張り続け、長時間労働化

②ブラック企業とパワハラ:給与が低いのに、幹部候補という理由で長時間労働させる

③非正規問題:コースアウト者の著しい低待遇

④出産した女性のキャリア問題:途中でブランクが生まれ、階段から外れる

⑤働かない管理職(ミドル/シニア)問題:パフォーマンスが低くても高給な熟年

 

本当のジョブ型雇用を考えよ

私たちは「階段を上れる」キャリアであり、「上らなければいけない」キャリアしかなかった。仕事生活の前半戦ではそれが欧米の「入り口で決まる」社会よりも良い面が多そうだが、後半戦になると問題が多々出てきた。今までは、皆が管理職になれるという幻想の中で、やみくもに働いていた。多くの人が昇進できたバブル期前でならこの働き方も帳尻があった。

しかし、そろそろ、昇進という幻想で無茶働きさせるインチキさに終止符を打つべきである。同じ給与で同じ仕事を続ける「階段から下りる」コース設計こそ、「本物のジョブ型」である。