人類とイノベーション 世界は「自由」と「失敗」で進化する

発刊
2021年3月5日
ページ数
464ページ
読了目安
758分
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イノベーションの本質とは
世界的に著名な科学・経済啓蒙家が、イノベーションの本質を解き明かした一冊。過去から現在までの様々なイノベーションを事例にしながら、イノベーションとは何なのか、その仕組みを解説しています。

イノベーションとは何か

イノベーションは様々な形で生まれるが、すべてに共通し、さらに進化によって生じた生物学的イノベーションとも共通するのは、「ありえなさ」が高められていることだ。つまり、イノベーションはすべて、原子やデジタル情報のありえない組み合わせである。

イノベーションは進化と同様、偶然に生じることはありえない。そして、たまたま役に立つ形に、万物を再配列する方法をどんどん見出していくプロセスだ。結果として生まれるものはエントロピーの逆、つまり材料の以前の状態よりも秩序だっていて、乱雑さが小さい。そして、イノベーションは潜在的に無限である。なぜなら、やるべき新しいことがなくなっても、同じことをより迅速に、またはより少ないエネルギーでやる方法は、常に見つけられるからだ。

 

イノベーションの本質

成功するイノベーションは、昨日のものでも2世紀前のものでも、ハイテクでもローテクでも、大掛かりな装置でも小さな道具でも、リアルでもバーチャルでも、その影響が破壊的でもただ役に立つだけでも、大抵がおおよそ同じ道をたどる。

まず、イノベーションはほぼ常に緩やかなものであって突然のものではない。「ピンときた瞬間」は稀で、たぶん存在せず、喧伝されている場合は、いろんな人が何度も後から振り返り、長い時間をかけて用意したのであって、もちろん途中で何度も方向を間違えている。

人工のテクノロジーはほぼ例外なくゼロから発明されるのではなく、以前の人工のテクノロジーから進化する。これは進化系の重要な特徴「隣接可能性」の段階への移行である。

 

イノベーションが緩やかな進化的プロセスであるのに、頻繁に「革命」「大胆な躍進」「突然のひらめき」などと説明される理由は2つ。人間の本性と知的財産制度だ。突破口を開いた誰にとっても、その重要性を誇張し、ライバルや先達を忘れ、突破口を実用的な提案にした後継者を無視するのは、あまりに容易で、魅力的だ。突然世界を変えるものとしてイノベーションを描きたがるのは、発明者だけではない。ジャーナリストや伝記作家もそうだ。

 

あらゆるテクノロジーは他のテクノロジーの組み合わせであり、あらゆるアイデアは他のアイデアの組み合わせである。アイデアが生殖する時、イノベーションは起こる。人々が出会って、物やサービスや考えを交換する場所で起こる。イノベーションは孤立している場所や過疎の場所ではなく、交易と交換が盛んな場所で起こる。

極めて単純な物やプロセスでも、独りの人間だけでは理解できないことなどからもわかるように、イノベーションは常に「協力」と「共有」を必要とする。知識は頭の中ではなく、頭と頭の間に蓄えられている。イノベーションは常に協力で起こる現象である。1人が技術的な突破口を開き、別の人がその製造方法を考え出し、3人目が普及するくらい安くする方法を練り上げる。全員がイノベーションプロセスの一部であり、イノベーション全体を達成する方法は誰も知らない。

 

このことは2つのパラドックスをもたらす。第1に、個人は重要ではない。エジソンやペイジやブリンがいなくても、世界は電球や検索エンジンなしでは終わらない。もっと時間がかかり、見かけが少し変わっていたかもしれないが、イノベーションは起こる。業績をあげるレースがあって、それに勝った人がいる。長期的には個人はあまり重要ではないが、だからなおさら短期的には並外れている。

第2のパラドックスは、イノベーションは予測可能に思えるが、そうではないことだ。テクノロジーは、振り返って考えれば馬鹿馬鹿しいほど予測可能だが、予想しようにも全く予測不可能だ。

 

イノベーションは自由から生まれる

イノベーションを生み出す秘伝のソースの主な材料は「自由」だ。交換し、実験し、想像し、投資し、失敗する自由であり、統治者や聖職者や泥棒による奪取と制約からの自由であり、消費者の立場からすると、自分が好きなイノベーションに報い、そうでないものを拒む自由だ。

 

イノベーションは自由から生まれる。なぜなら、それは自由に表現された人間の願望を満足させようとする、自由で独創的な試みだからである。革新的な社会は自由な社会であり、そこでは人々は自由に自分の望みを表現し、その望みの実現を求める。そして、そうした要求を満たす方法を見つけるために、創造力に溢れる人たちが自由に実験する。

この自由への依存こそが、イノベーションに関する疑問の答えだ。なぜイノベーションが計画しにくいかと言えば、人間の望みもそれを満足させる手段も、求められる細部までは容易に予測できないからである。それでもイノベーションは振り返ってみれば不可避に思えるのは、欲求と満足のつながりがその時初めて明らかになるからだ。