妄想力を鍛え、相手の目線に立つ
18歳で最初に手がけた物件「COOL」を作った時から、「みんなが行きたい場所、自分が行きたい場所を作ること」という気持ちは変わらない。常にエンドユーザーの代弁者として、デザインを手がけている。決してデザイナーの目線だけではなく「こんな空間があったらいいな」を叶え続けている。但し、デザイナーは常に発注を受ける側。クライアントが期待する以上の答えを出さなければならない。
仕事の大部分は、相手の立場になって考えること。例えば、レストランをデザインする時にまず考えるのは、この店はどんなシチュエーションで誰と行く店なのか、自分が客になる。お客さんになったつもりで頭の中で妄想のデートを繰り返す。
妄想力を鍛えるために、国内外問わず、毎月30冊以上の雑誌を読み続けている。それもほとんど女性誌である。素敵な女性にはどんな空間がふさわしいのか、パラパラと雑誌をめくりながら考える。あるいは彼女たちが着ている服、履いている靴からイメージを膨らませることもある。ファッションはいつも、大きな刺激を与えてくれる。
雑誌が妄想のアイデアのソースに適しているのは、ネットや映画よりも動かない分、そこに妄想の余地が残されているからかもしれない。
自分のデザインを一言で説明するならば、経験に裏打ちされた妄想である。様々な場所で遊び、多様な経験をしながら歩んできたことこそが、デザイナーとして認められてきた理由である。遊びから生まれるものは今も昔もたくさんある。
クライアントの先を読む
妄想力を駆使すれば、クライアントの求めていることがわかってくるはず。相手がどんな風に感じるのかを常に考えておくと、ビジネスにも応用できる。まずクライアントが何を求め、何に悩んでいるのかをしっかりと把握する。そうやって、クライアントの思い描くビジネス像を聞いてから、クライアントの立場に立ってトコトン考える。
しかし、クライアントが想像する通りのアイデアでは、オリジナリティは生まれない。それではデザイナーに仕事を依頼する意味がない。相手の立場に立って考え、さらにその先を読むことができれば、結果はついてくる。
自分の中の振り子が振れる理由を蓄積する
A案とB案と時に正反対の案を生み出すために気をつけているのは、常にニュートラルでいること。自分の心の中の振り子は、ずっと同じところにいる。その振り子がどっちに振れるか常に意識する。自分がいいと思ったA案に振れた振り子が、その反動でB案に辿り着く。そして、その両極を知らないと、C案に辿り着けない。
どんな些細なことでも、何かしらの選択、つまりアクションを起こす時には、心の中の振り子が振れている。なぜ振り子が振れているのかを考えていくと、自分という人間が何に反応しているのか、少しずつわかってくる。
デザインにおいては、本質を見極める力が大切である。本質を見極める力をつけるためには、ニュートラルをアップデートし続けるしかない。そして、振り子が振れる理由を自分の中に蓄積しておくしかない。その振り子が振れる理由を具現化していくことがデザインの仕事である。