DXにはマーケティングの視点が必要
DXとは、一言で言えばデジタル技術を活用したビジネスの大変革のこと。大量のデータを解析し、デジタル技術をフル活用することで既存の商品ラインアップ、組織体制、ビジネスモデルを変革して顧客への提供価値を変えること、変え続けることを指す。DXの取り組みには、従前から言われてきたデジタル化の域を出ないものも多い。ただデジタル化したことを「DXに取り組んだ」と捉えてしまうと、システムの導入や業務効率化にとどまり、新たな価値を生み出すところまでたどり着かなくなる。
商品やサービスの供給側では、あちこちからDXという単語が聞こえてくるが、DXのメリットを享受するはずの市場からは「便利になった」といった声がほとんど聞こえてこない。市場が喜ぶDXを実現するために重要なのは、市場の声を聞き、市場の課題を解決することである。そのためには、従来のように「ITの人」だけが技術面からDXにアプローチするのではなく、市場の消費者に近く、市場を最も理解しているマーケティング部門の人やマーケターが積極的にDXに関わる必要がある。
マーケティング目線が何よりも重要な理由は、データの活用にある。社会の動向をきちんと把握し、またユーザーの課題を把握するためには、データによって導き出された事実をベースに議論し、マーケターの持つユーザーの調査・分析といった手法を有益に活用する必要がある。経営判断もKKD(勘と経験と度胸)からデータドリブンに移行するべきである。
解決すべき課題が見えない状態で現場にデジタル化を求めても、DXは成功しない。成功の鍵を握るのは、実はデータに基づく顧客視点のマーケティングである。国内のDXの議論は、IT部門が必要な機能を提供するDX1.0に比重が偏っている。それは土台としては必要不可欠だが、その上で評価されるDXを実現するには、マーケティング視点=DX2.0を推進する必要がある。
マーケティング視点のDX
マーケティングでは、消費者のニーズを捉えたり、サービスの内容などを考えたりする際、「マズローの欲求5段階説」がよく用いられる。低次の物質的欲求は、IT化、デジタル化で実現できる。その上の高次元の取り組みにおいて、価値を創造するのがDX2.0である。
・DX1.0(生理的欲求、安全欲求):リテラシー、アクセシビリティー
利用できるツールやノウハウを提供。既存にある仕組みの代替や追加。オンライン会議、電子署名、セキュリティー、回線やPC、スマホ、ソフト整備、データ保管。
・DX2.0(社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求):製品・サービス価値の創造、提供
利用できるインフラを通じて顧客のニーズを発掘の上、ソリューションを顧客に提供する。従来のサービスのオンライン移行のみならず、付加価値や利便性の供与。社会貢献活動やSDGsに基づく世界に対する人類への貢献。デジタルツールを通じて、自己実現をサポートする仕組みの導入など。
ユーザーに本当に役立つDXを生み出すためには、様々なアイデア、情報、知見が必要である。DXに期待するユーザーの立場に身を置き、買い手側の目線で考える「マーケットイン」の発想が求められる。
マーケティング視点のDXの4P
マーケティング視点は、商品・サービスにお金を払う消費者側の目線で見ることを意味する。消費者の立場になって、商品やサービスの必要性や重要性、「提供価値」「ベネフィット」と呼べるものは何かを追求する必要がある。
マーケットのニーズを把握して望ましい反応を引き出すためには、マーケティング戦略の立案におけるフレームワーク「4P」を利用すると良い。
・Problem(課題)
顧客や自社、業界や社会の抱える問題を調査などを通じて定量・定性両面で把握し、定義する
・Prediction(未来予測)
自社や関係先、社会全体のあるべき姿や技術動向を予測して自社や顧客・取引先の理想的な姿を描く
・Process(改善プロセス)
理想的な姿から逆算して必要なプロセスを規定する。規定されたプロセスを実行する計画を立てる
・People(人の関与)
人により、人のために実行する。実行するために必要な文化・ケイパビリティー教育・組織導入。人間がすることと、自動化・合理化することを分けて促進する