人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの

発刊
2015年3月11日
ページ数
263ページ
読了目安
311分
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人工知能の現在と未来
トップクラスの研究者が、人工知能の研究の歴史から、現在の研究レベル、将来の可能性などについて紹介している一冊。これから産業や経済に大きなインパクトを与えると予測されている人工知能について、詳しく解説されています。

人間の知能はコンピュータで実現できる

「人間のように考えるコンピュータ」という本当の意味での人工知能は2015年現在、まだできていない。人間の知能の原理を解明し、それを工学的に実現するという人工知能は、まだどこにも存在しない。我々は、なぜ世界をこのように認識し、思考し、行動する事ができるのかという根本原理は未だよくわかっていない。

元々の問いは単純で、人間の知能は、コンピュータで実現できるのではないか。なぜなら、人間の脳は電気回路と同じだからだ。人間のすべての脳の活動、即ち、思考・認識・記憶・感情はすべてコンピュータで実現できる。脳の機能や、その計算のアルゴリズムとの対応を1つ1つ冷静に考えていけば「人間の知能は、原理的にはすべてコンピュータで実現できるはずだ」というのが、科学的には妥当な予想である。そして、人工知能は、その実現を目指している分野である。

なぜ今まで人工知能が実現しなかったのか

人工知能は「知識」を入れれば賢くなるが、どこまで「知識」を書いても書き切れないという問題にぶつかった。そこで、機械学習という、人工知能のプログラム自身が学習する仕組みが開発された。人間にとっての「認識」や「判断」は、基本的に「イエス・ノー問題」として捉える事ができる。この正解率を上げる事が学習である。機械学習は、コンピュータが大量のデータを処理しながらこの「分け方」を自動的に習得する。

しかし、機械学習にも弱点がある。それが「特徴量」の設計である。特徴量というのは、機械学習の入力に使う変数の事で、その値が対象の特徴を定量的に表す。特徴をつかみさえすれば、複雑に見える事象も整理され、簡単に理解する事ができる。この特徴量に何を選ぶかで、予測精度が大きく変化する。人間は特徴量をつかむ事に長けている。この特徴量の設計は、人間が頭を使って考えるしかなかった。「世界からどの特徴に注目して情報を取り出すべきか」に関して、人間の手を借りなければならなかったため、人工知能は実現しなかった。

50年来のブレークスルー「ディープラーニング」

コンピュータがデータから特徴量を取り出し、それを使った「概念」を獲得した後に、そこに名前を与える。「決められた状況での知識」を使うだけではなく、状況や目的に合わせて、適切な記号をコンピュータ自らがつくり出し、それを使った知識を自ら獲得し活用する。その実現にあたって必要となる、コンピュータが与えられたデータから重要な「特徴量」を生成する「ディープラーニング」という方法ができつつある。

ディープラーニングは、データをもとに、コンピュータ自ら特徴量をつくり出す。人間が特徴量を設計するのではなく、コンピュータが自ら高次の特徴量を獲得し、それをもとに画像を分類できるようになる。人工知能の分野でこれまで解けなかった「特徴表現をコンピュータ自らが獲得する」という問題に1つの解を提示した。ここから連鎖的にブレークスルーが起こっていくかが、今後、人工知能が実現するかのポイントとなる。

ディープラーニングは、これから起きると予測される人工知能技術全体の発展から見れば、ほんの入り口にすぎない。しかし、いったん人工知能のアルゴリズムが実現すれば、人間の知能を大きく凌駕する人工知能が登場するのは想像に難くない。特徴量を学習する能力と、特徴量を使ったモデル獲得の能力が、人間よりも極めて高いコンピュータは実現可能であり、与えられた予測問題を人間よりもより正確に解く事ができるはずである。

人工知能は人間を超えるのか。答えはイエスだ。「特徴表現学習」により、多くの分野で人間を超えるかもしれない。そうでなくても、限られた範囲では人間を超え、その範囲は広がっていくだろう。