ワタミの失敗 「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造

発刊
2016年9月8日
ページ数
240ページ
読了目安
239分
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ワタミがブラック企業と叩かれ続けた理由
ワタミはなぜ「ブラック企業」として叩かれることになったのか。ワタミの事例を通じて、ブラック企業と批判される構造と、企業の危機対策について解説されている一冊。

ワタミの凋落

「ワタミはブラック企業」との評判による弊害は、売上低下のみにとどまらず、株価の下落や採用活動の難航など経営活動全体に打撃を与えた。その影響は関連会社にも波及し、グループ全体が経営危機に陥っている状態だ。直近、2015年3月期の連結決算の最終赤字は128億円。2期連続赤字に陥っており、主力である外食事業は43ヶ月連続で売上が減少していた。手元の現金が底を尽き、追い込まれたワタミは介護事業を210億円で売却することで、すんでのところで倒産を回避した。

2008年、ワタミに入社したばかりの女性社員が過労自殺し、大々的に報道された。その頃から「アルバイトの残業時間切り捨て問題」「告発したアルバイトに対する報復的解雇問題」など、同社の店舗における長時間労働や法令違反に関する事件の報道が増え始める。また従業員に対する渡邉美樹の厳しい姿勢などが報道で明らかになっていき、ワタミに対する「ブラック企業批判」が語られるようになった。2013年には、ワタミがブラック企業の代名詞のように語られ、そこから客離れ、従業員離れなどの影響による業績悪化が始まった。

ワタミの失敗

制度面や待遇面においてワタミは特段悪質とは言い切れない。労基法に違反した企業、裁判になった企業、過労自殺者が出た企業は数多く存在するにもかかわらず、ワタミだけが突出して、叩かれ続けたのはなぜか。そこには次の3つの背景がある。

①全国的に認知度が高く、幅広い世代、地域で話題を共有できる
②経営者がよく知られている
③かつてのポジティブなイメージと実態のミスマッチがある

批判されやすい背景に加えて、批判対応においてやるべきことをやらず、「やってはいけないことをやってしまった」ことが、ワタミの失敗であった。その要因は10つ。

①ネガティブ報道のきっかけが「従業員の過労自殺事件」であったこと
ワタミが何と説明・弁解しようと「人が1人亡くなっているのに」という反論の前に全く無力となった。

②最初に詳細に報道したのが「週刊文春」であったこと
緻密に物証や証言を取材する週刊文春によって報道され、インパクトが大きかった。

③渡邉とワタミが「危機管理広報」に失敗したこと
従業員の過労自殺に対して、会社やトップが当初何ら公式なコメントを発さずに、事件に向き合っていない印象を与えてしまった。

④情報が「ネット経由」で拡散する時代であったこと

⑤渡邉の選挙出馬によって政治批判の材料に利用されたこと

⑥「ブラック企業」の定義に関して、社内外で温度差があったこと
世間で言うブラック企業と、自分達が考えるブラック企業の認識に齟齬があり、「ワタミがブラックとは全然思っていない」というコメントで、ネガティブな印象を与えてしまった。

⑦従業員の権利意識が高まったこと

⑧自社労働組合の不在により社員自治機能が喪失していたこと

⑨渡邉が、自身の考えを率直に語る人物であること
渡邉は自分の行動に絶対的な確信を抱いてる。批判にさらされた企業トップとしては配慮不足、説明不足があった。

⑩渡邉に悪意がなかったこと
渡邉自身が、佐川急便時代に1日20時間近く働き、お金を貯めて起業して夢をつかんだという成功体験を持っていた。そのために「ブラック」に対する一般的な認識と、彼の信念に齟齬があった。

ブラック企業になりやすい会社の共通点

善意を持って従業員を扱っている場合でも、価値観が合わない一部の人にとってそれが迷惑な「押しつけ」に感じられ、結果として「ブラック」と認識されてしまうことがある。次の4つの条件の内、複数が揃った場合、意図しない内に「従業員に対する善意の押しつけ」が発生する可能性がある。

①抽象度が高い崇高な理念を掲げている
②創業経営者に強いコンプレックスや挫折経験がある
③経営者が社員の成長を心から望んでいる
④家族主義的な雰囲気を重視している