ポスト・ヒューマン誕生―コンピュータが人類の知性を超えるとき

発刊
2007年1月25日
ページ数
661ページ
読了目安
1155分
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コンピュータと人間が融合する未来予測
2045年、コンピュータが人間の知性を超える。そして、人間と機械は融合し、これまでの人間の限界をはるかに超えた領域に踏み込む。人工知能の世界的権威が、これからの未来を予測している一冊。

特異点(シンギュラリティー)

特異点とは何か。テクノロジーが急速に変化し、それにより甚大な影響がもたらされ、人間の生活が後戻りできないほどに変容してしまうような、来るべき未来の事だ。迫りくる特異点という概念の根本には「人間が生み出したテクノロジーの変化の速度は加速していて、その威力は、指数関数的な速度で拡大している」という基本的な考え方がある。指数関数的な成長というものは、見過ごされてしまいがちである。最初は目に見えないほどなのに、その内予期しなかったほど激しく、爆発的に成長する。

コンピュータが人間の能力をしのぐ分野は、今や急速に増えている。人間の脳は、様々な点で素晴らしいが、限界を抱えている。脳は超並列処理を用いて、微妙なパターンを素早く認識する。だが、人間の思考速度は非常に遅い。基本的なニューロン処理は、現在の電子回路よりも数百万倍も遅い。このため、人間の知識ベースが指数関数的に成長していく一方で、新しい情報を処理するための生理学的な帯域幅は非常に限られたままなのである。

人間と機械の区別が存在しなくなる

特異点に到達すれば、我々の生物的な身体と脳が抱える限界を超える事が可能になる。好きなだけ長く生きる事ができるだろう。人間の思考の仕組みを完璧に理解し、思考の及ぶ範囲を大幅に拡大する事もできる。21世紀末までには、人間の知能の内の非生物的な部分は、テクノロジーの支援を受けない知能よりも、数兆倍の数兆倍も強力になる。

我々は今、こうした移行期の初期の段階にある。今世紀の半ばまでには、テクノロジーの成長率は急速に上昇し、ほとんど垂直の線に達するまでになるだろう。特異点以後の世界では、人間と機械、物理的な現実とヴァーチャル・リアリティとの間には、区別が存在しなくなる。

収穫加速の法則

人は大抵、今の進捗率がそのまま未来まで続くと直感的に思い込む。なぜなら、指数関数曲線は、ほんの短い期間だけをとってみれば、まるで直線のように見えるからだ。しかし、テクノロジーの歴史を研究すれば、テクノロジーの変化は指数関数的なものだという事が明らかになる。

テクノロジーの加速度的な発展は、「収穫加速の法則」と呼ぶものの影響であり、避けられない結果である。この法則は、進化のプロセスにおける産物が、加速度的なペースで生み出され、指数関数的に成長している事を表す。進化は正のフィードバックを働かせる。進化のある段階で得られたより強力な手法が、次の段階を生み出すために利用される。特異点が到来する頃には、人間とテクノロジーとの区別がなくなっている。人間が、今日機械と見なされているようなものになるからではなく、むしろ、機械の方が人間のように、さらには人間を超えて進歩するからだ。

収穫加速の法則は、電子工学、DNA解読、通信、脳のリバースエンジニアリング、ナノテクノロジーなど、全てのテクノロジー、どのような進化のプロセスにも当てはまる。来るべきGNR(遺伝学、ナノテクノロジー、ロボット工学)の時代の要因となるものは、コンピューティングの指数関数的な爆発だけでなく、多数のテクノロジーの前進が絡み合い、相互作用や無数のシナジーが生まれる事の方が大きい。

21世紀前半は、遺伝学(G)、ナノテクノロジー(N)、ロボット工学(R)の3つの革命が同時に起きた時代であったと、いずれ語られる事になるだろう。これらの革命は特異点の黎明を告げるものである。

特異点は2045年に到来する

特異点(人間の能力が根底から覆り変容する時)は、2045年に到来する。非生物的な知能が2040年代半ばには明らかに優勢を占めるにしても、我々の文明は、人間の文明であり続ける。2020年代には、コンピューティングのほとんどは、壁、家具、衣類、体や脳の中など、あらゆる環境を通して広く配信される事になる。