私たちは子どもに何ができるのか――非認知能力を育み、格差に挑む

発刊
2017年9月6日
ページ数
176ページ
読了目安
227分
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推薦者

子どもを成功に導く能力の育てかた
世界の教育者から注目されている子供の「非認知能力の育成」はどのようにすれば良いのか。その課題と対策が紹介されている一冊。

子どもの発達には非認知能力が重要

低所得層の子どもたちの成果を改善するためには、「非認知スキル」と呼ばれることの多い一群の要素「粘り強さ」「誠実さ」「自制心」「楽観主義」などが、決定的に重要になる。

この確信を支える科学的根拠は、神経科学や小児科学の分野にも見られる。過酷な、あるいは不安定な環境が、成長過程にある幼少期の子どもたちの脳や体に生物学的な変化をもたらすことが、最新の調査で示されている。そうした変化は、思考や感情を制御する能力の発達を損なう。これが損なわれると、情報を処理したり感情を制御したりすることが困難になり、学校生活をうまくこなすことが難しくなる。

非認知能力の高い子どもの方が学歴が高く、健康状態もいいという結果が出ている。また、一人親家庭になる可能性は低く、借金を抱えたり刑務所に入ったりする可能性も低い。

これらの気質が子どもの発達において重要でありながら見過ごされてきたとする見方が、特に教育の分野で広がり続けている。しかし、ここ何年か非認知的な要素について多くの議論がなされてきたにもかからわず、それを伸ばす最善の方法については結論が出ていない。

「非認知能力」は環境の産物である

やり抜く力、好奇心、自制心、楽観的なものの見方、誠実さといった気質は「非認知スキル」と表現されることが多いので、生徒たちのこうした気質を熱心に伸ばそうとする教師は、すでに教え方のわかっている読み書き計算といったスキルと同じように扱おうとする。

しかし、実践はそう簡単ではない。数学を教えるのと同じ方法で気質を教えることはできない。「非認知能力は教えることのできるスキルである」と考えるよりも、「非認知能力は子供をとりまく環境の産物である」と考えた方がより正確であり、有益でもある。子供たちのやり抜く力やレジリエンスや自制心を高めたいと思うなら、最初に働きかけるべき場所は、子供自身ではなく、環境なのである。

幼い時期のストレスは脳の発達を阻害する

成功に必要な能力を伸ばすことを著しく阻害しているものの1つは健康に関わる問題だ。概して貧しい子供は、栄養価の高い食事がとれておらず、受けられる医療の質も低い。もう1つは、幼い頃の知的刺激である。低所得層の親が良い図書館などの文化施設のある地域に住んでいることは稀で、変化に富んだ豊富な語彙で幼い子供に話しかけるようなこともあまりない。

しかし、環境による影響の中で子供の発達を最も左右するのは、ストレスである。子供たちは、いくつかの環境要因によって、長期にわたり不健全な圧迫を受け続けることがある。こうしたストレス要因が子供の心と体の健全な発達を阻害する度合いは、従来の一般的な認識よりもはるかに大きい。

逆境は、特に幼い時期ほど、体内の複雑なストレス反応のネットワーク(脳と免疫システムと内分泌システムを結ぶネットワーク)の発達に強い影響を及ぼす。さらにストレスは脳の発達にも影響を及ぼす可能性がある。とりわけ幼い時期に経験した高レベルのストレスは、前頭前皮質、つまり知的機能をつかさどる最も繊細で複雑な脳の部位の発達を阻害し、感情面や認知面での制御能力が育つのを妨げる。

子供がストレスを受けている局面での親のケアが重要

一番の問題となる環境要因は、子供たちが経験する人間関係である。つまり、周りの大人が特に子供たちがストレスを受けている時にどう対応するかである。子供が感情面、精神面、認知面で発達するための最初の極めて重要な環境は家族だ。子供が瞬間的なストレスに対処するのを助け、怯えたり癇癪を起こしたりした後に落ち着きを取り戻すのを手伝うことのできる親は、その後の子供のストレス対処能力に大いにプラスの影響を与える。