孤高の天才という神話
孤高の天才という神話は、長年にわたり巨像のごとくそびえている。「世界を変えるような新しく美しいものは、偉大な精神から生まれる」という考え方はあたかも常識とされ、私たちは改めて考えようとさえしない。創造性は個人の内に秘められているものだから、その秘密を解き明かすには稀有な天才の軌跡をたどればわかりやすいと、一般的に考えられている。
問題は、孤高の天才が空想にすぎず、神話であるということだ。これは、イノベーションの社会的な性質を無視している。孤高の天才という概念が、創造性に関する私たちのイメージを支配するようになったのは、それが真実だからではなく手頃な物語になるからだ。
創造性に不可欠な社会的側面を、神話に頼らずにわかりやすく語る視点が「クリエイティブ・ペア(創造的な2人組)」だ。隠れたパートナーシップは、特別なペアに限らず、あらゆる分野の人間関係に広く存在する。どの分野にも有名ゴルファーを支える無名のキャディがいるが、その役割が世間の目に触れることはない。
創造性は2人組によって生まれる
2人組は創造をもたらす基本単位だ。本当に重要な成果は2人組から生まれる。なぜ2人組なのか。人間はグループより1対1の方が、より心を開いて深く交流できる。さらに2人組は最も流動的で柔軟性のある関係だ。2人の人間がいれば、基本的な関係は機能する。もう1人加わると状況は安定するが、役割や地位が固定され、創造性の息が詰まるかもしれない。2人組の決定的な特徴は、2人がそれぞれ具体的な貢献をしなければならないことだ。自分には他に頼れる人はいないという自覚が、2人の間に特別な献身をもたらす。
ペアは、2つの存在が押しつ押されつしながら、クリエイティブな関係を築いていく。数多くのクリエイティブ・ペアの比較から、彼らの関係は6つのステージを経て進化することが見えてきた。
①邂逅
ペアを組むことになる相手との最初の出会い。2人の間に火花が走り化学反応が生まれる。意外な共通点や違いが明らかになる。
②融合
互いに関心を持ち刺激し合う関係を超えて、本物のペアになっていく。それぞれの自我の一部を手放し、アイデンティティの結合が起きる。
③弁証
創造の作業の中で2人の役割が発展する。最適な位置関係が決まり、創造的プロセスの目指す方向が定まる。
④距離
関係を長続きさせるためには、2人の距離をさらに縮めなければならない。一方で、自分たちにとって最適な距離感を見定め、パートナーシップが刺激の源であり続けられるように、それぞれが独自のアイデアや経験を育む空間を十分に確保する。
⑤絶頂
創造は絶頂期に入り、2人が競争と協働を繰り返して無限の力を発揮する。その一方で、ペアの力学と対立の可能性が浮き彫りになる。
⑥中断
2人を突き動かしてきた同じ情熱が2人を分かち、幕切れを迎える。ただし、2人の間の火花は消えていない。大抵は周囲の状況に決定的な変化が起こり、バランスが失われるだけだ。物理的にも精神的にも2人は結びついたままで、クリエイティブ・ペアは永遠に終わらない。
クリエイティブな人間関係は、親近感と違和感が絶妙なバランスで結びついている。そのバランスを支えるのは2人が補い合う結びつき方だ。2人の人間関係が支え合うだけでなく、驚きを与え、時には相手を苛立たせながら、1人では達成できなかった大胆な成果をもたらす。そうした補完的な結びつきがペアの原点となる。偉大なペアは大きく違う2人であり、かなり似ている2人でもある。この相反する要素が同時に成り立つことが、深い感情的な絆を生み、クリエイティブ・ペアに欠かせない衝突を駆り立てる。