人を動かすには論理だけでなく感情も必要
説得とは、単に相手の合意を得ることではなく、聞き手をこちらの思い通りに動かすことである。レトリックとは、聞き手に影響を与え、友好的な関係を築きながら雄弁に語り、ウィットの効いた答えを返したり、反駁の余地のない論理を展開したりする技術である。レトリックは、人を説得する上で役に立つ。
「同意」は聞き手の常識的な判断のことである。それはまさに共通の考えであり、選択を共に信じる気持ちのことである。そこに「誘惑」が入り込む余地がある。信じるには感情が必要なのだ。「誘惑」とは相手を「操る」ことであり、議論も時に人を操るためになされるが、私たちは「誘惑」するのを尻込みしてしまう。だが、この方法を使えば同意を得ることができる。論理だけでは人間を行動へと駆り立てることはできない。相手に行動したいと「望ませる」ことが必要なのだ。
「議論」の目的を決める
議論は、うまくやれば聞き手を語り手の思う通りに動きたい気持ちにさせるもの。それに対して口論は、相手に勝つためにするものだ。合意を得るためにするのは議論である。慎重な議論で勝つためには、相手を言い負かそうとしてはいけない。そうではなく、自分の言いたいことを貫き通すことだ。他人の同意を得るための1つの方法は、あなた自身がまず相手に同意すること。逆に相手の論点を利用して、目指すものを手に入れればいい。
人を説得するのには3つの目的がある。
①聞き手の感情を刺激すること
②聞き手の考えを変えること
③聞き手を行動へ駆り立てること
3番目の目的である聞き手を行動へと駆り立てることは、最も難しい。欲望を利用することに加えて、行動するのはそんなに大変なことではないのだと納得させることが必要である。
時制をコントロールする
すべての論点は、次の3つに集約される。
①非難:「チーズはどこへ消えた?」(過去形)
②価値:「妊娠中絶は合法にすべきか?」(現在形)
③選択:「デトロイトに工場を建てるべきか?」(未来形)
目的に合った時制を使うことは非常に大切だ。聞き手に何かを選択させたいのなら、未来に焦点を当てなければならない。
3つの説得術を使う
アリストテレスは、3つの説得術を提唱した。これらが三つ巴になって、議論に勝つために機能する。
①語り手の人柄による説得(エートス)
説得者の人格、評判、信頼に値しそうに見えることなどを使う。レトリックでは単に善いことよりも、評判がいいことの方が大切である。エートスによって譲歩を引き出すためには、ディコーラム(適切さ)が必要である。ディコーラムとは「相手に合わせる」技術を指す。どんな場所でもその場にふさわしい言動をすること、そして聞き手の期待に沿った振る舞いをしなければならない。
②話の論理による説得(ロゴス)
単に論理のルールに従えばいい訳ではない。聞き手が考えていることを利用する。ロゴスの中でも特に効果的な技術が「譲歩」である。論敵が放つ言葉の中にこそ、説得に使えるものが潜んでいる。
③聞き手の感情による説得(パトス)
論理的に説得することはできても、行動を起こさせるには、もっと感情に訴えるものがなければならない。共感は聞き手の感情に寄り添うことである。聞き手の気分を否認したり、否定したりしてはいけない。共感とは、関心を示すことにほかならない。まずは聞き手の感情に共感することから始め、意見を主張する過程で自身の感情を徐々に変化させていくといい。