成城石井の人気の理由
スーパーマーケット・成城石井の成長が加速している。2014年3月時点で店舗数は112店。10年前の2004年は30店舗、1994年は4店舗しかなかった。しかも路面店、駅ビル、デパ地下、ショッピングセンターテナント、オフィスビル、コンビニ跡地など店舗形態は多彩。サイズも20坪の小型店から190坪の大型店まである。2013年度の全店売上高は500億円超と前年比105%の伸びとなった。2009年の売上高400億円台から、4年で100億円以上の伸びとなっている。この20年、日本の消費市場は厳しい状況に見舞われてきた。こうした中で、成城石井は店舗を倍増、さらには3倍にしてきた。
成城石井がこれほど支持を集めている大きな特徴は、その品揃えの独特さにある。輸入商材、隠れた名品、地方の名産品をはじめ、独自商材が極めて多い。また成城石井が貿易会社を持ち、直輸入品が多いのも大きい。まだ1店舗だった時代から、第三者に任せず、バイヤーが直に世界の商品を探し出し、買い付けてきた。だから、成城石井でしか手に入らない商品が多い。加えて、プライベートブランド商品もたくさんある。商品は全体の3割が他では買えず、この品揃えのユニークさ、クオリティの高さが人気の秘密である。
顧客が求めるものを追求する
成城石井という店は、成城のお客様に育てられた。成城は、都内屈指の高級住宅地である。そこで商売するとは、目の肥えた方々の視線に、常にさらされ続けたという事である。高くていいものは当たり前で、それをいかにお値打ちで出せるかが問われた。
象徴的な例がワインだ。ワインは成城石井の人気商品の1つだが、そのこだわりは徹底している。完全常温、定湿管理の倉庫を建造し、飲み頃の状態のものが店頭に送られる。
ワインと並び人気商品になっている輸入チーズの取扱いは1980年代のこと。チーズは鮮度も重要で、飛行機で直輸入される。自社で貿易会社を作り、マージンをカットする事で、リーズナブルな価格でワインやチーズの輸入を可能にした。本当においしいもの、こだわったものをとことん突き詰めよう、というところから、成城石井は品揃えを考えた。儲けようという発想ではなかった。こうした考え方は、輸入品に限らず、肉、魚、野菜の生鮮三品も同じである。
成城石井の商品は値段が高いといわれる事がある。ただ、ストーリーをきちんと伝えて、そこまでこだわっている生産者がいて、その気持ちを理解してこだわって売ると、本当に高いだろうか。成城石井のお客様はそれを理解してくれている。
バブル崩壊以降の20数年、IT化なども手伝って、日本企業は徹底的な効率化を推し進めてきた。成城石井がやってきたのは、こうした流れとは逆行したものだった。
効率が悪く、面倒な事ばかりやってきた。大量生産品を売るのではなく、少量多品種にこだわってきた。きっとこういうものを求めている顧客がいるに違いない、と尖った品揃えをした。
成城石井は、日本の不況期、デフレ期に入ってから成長していった。たしかに成城石井には、高価格の高級品も少なくない。しかし、ただ高級なものが置かれている、と成城石井を捉えたら間違える。顧客が求めているものを追求し続けてきたのが、成城石井なのだ。
面倒なことをやる
成城石井が顧客から高い支持を得ている理由の1つが、接客をはじめとしたサービスへのこだわりとレベルの高さである。
成城石井が目指しているのは、会話ができるスーパーである。店内には従業員が大勢いて、どんどん顧客と会話をする。会話をすれば、求められているものが見えてくる。従業員の中には、顧客の顔と名前を覚えているだけでなく、顧客の好みを把握している人も少なくない。こうした接客の姿勢は、早い時期から作られていたが、ここでも成城に暮らす顧客の影響は大きかった。
スーパーで顧客が大きな不満を抱えるものの1つが、レジの行列。成城石井では、そもそもレジの人員が多い。混雑時間帯には、その人員を一気に増やす。レジは、その日のスーパーの最後のイメージを形作る場所になるのだ。
接客サービスを重視している成城石井だが、サービスマニュアルはない。役割ごと、お店ごとに、求められるものが全く違うからだ。運営はマニュアルがあった方が楽である。だが、成城石井はあえてそれをしない。いつも顧客の視点が先なのである。サービスもサービスそのものが目的ではない。あくまで顧客の期待にどう応えるかなのである。