夢とは何か
夢を含むすべての意識は脳内の電気信号によって生じている。近年の研究では、夢を見ている時の脳は、目覚めている時と同じくらい活性化していることが判明した。特に感情を制御する部分や視覚を処理する部分では、消費するエネルギー量が、目覚めている時よりも多くなることがわかった。
夢の中で、意識は大脳の活動によって活性化するため、はっきりとものを見たり、深く感じたり、自由に動き回ったりすることができる。夢から強い影響を受けるのは、私たちが夢を現実と認識しているからだ。そのため、夢の中の身体的な経験は、目覚めている時と同じくらいリアルに感じられる。
夢を全く見ないという人がいるが、それは単に覚えていないだけで、ほとんどの人が夢を見ている。私たちが夢を見る時間は一晩に1〜2時間であり、睡眠のどの段階でも起こりうる。
夢という自由で視覚的な物語を経験する際には、以下の3点が起きる。
- 身体が麻痺する
身体の動きが止まり、安全に夢を見ることができる - 理性や論理が一時的に放棄される
論理や秩序、リアリティ・チェックなどをつかさどる脳の前頭前野などからなるエグゼクティブ・ネットワークが停止する - 意識が内側に向かい、脳内に散らばった様々な領域が活性化する
脳のネットワークと想像力を結びつける「イマジネーション・ネットワーク(デフォルトモード・ネットワーク)」が活性化し、意識は内なる世界へ転じる
私たちが日常生活を送る際、エグゼクティブ・ネットワークとイマジネーション・ネットワークは通常、交互に優位に立っている。イマジネーション・ネットワークが認知階層のトップに立つと、記憶の中の緩やかな連想や、細い糸で繋がった斬新な組み合わせが追求され、もしもこうだったらという構想が視覚化される。このネットワークがあるからこそ、私たちは外界からの視覚情報を受け取らなくても夢を見ることができる。
イマジネーション・ネットワークとは物語を生む本能である。なぜなら、記憶や知識、感情を用いて一貫性のある物語を作り出しているからだ。人間の脳は現実とのギャップに直面すると、そのギャップを埋めるために整合性のある物語を構築する。イマジネーション・ネットワークは夢を見る心を解放するが、夢はどこまでも自由ではないし、無秩序でもない。夢の内容は時代を超えてほとんど変わっていない。夢は私たちの神経生物学的な構造や進化に基づく現象であり、文化、地理、言語の違いからはほとんど影響を受けない。
なぜ夢を見るのか
私たちは進化の過程で夢を見るようになったと考えられる。何のために夢を見るのかという疑問は、多くの説を生み出してきた。
- 脅威リハーサル説
夢は脅威に対する一種の予行演習であり、脅威を認識し、安全に対処するための訓練として機能している - 精神治療説
夢は夜のセラピストとして、不安を引き起こす感情を解消する役割を果たしている - 脳調整説
夢は睡眠中に脳を調整し、準備を整え、目覚めてもすぐに脳が活性化するようにする - 過剰適合仮説
夢は起きている間に学んだことを一般化するために存在している
夢の奇想天外な物語は、私たちが、将来直面するかもしれない広範な課題に対処するための貴重な機会を提供してくれる。私たちは夢を通じて、様々な事態をシュミレートし、生き残るためにどうすればよいかを考えることができる。
夢の研究は進んでいるが、人間が今も夢を見なければならない理由を説明する単一の理論はまだ見つかっていない。
夢は創造性を解き放つ
イマジネーション・ネットワークは夢の超常的な力を高め、私たちの記憶の奥底に潜む弱いつながりを探し出し、それまで考えもしなかったような非論理的な形で繋ぎ合わせる。そうした弱い相関は、日中は意図的に見過ごされている。しかし、夢は創造力と突飛さを共存させることで、独創性をもたらしてくれる。
創造的なプロセスは夢を見ることに似ている。創造的な思考とは、問題に新しい手法を取り入れ、世界を別の視点から見つめ直すことだ。それによって、今まで気づかなかった関連性や見逃していた解決策が見出される。
イマジネーション・ネットワークが活性化した時に生まれる洞察は、論理的な問題解決とは趣を異にする。夢を見ている時、論理的思考を担うエグゼクティブ・ネットワークは停止しているので、夢が数学の問題やなぞなぞを解いてくれることはない。しかし、夢は非常に視覚的な体験であるため、問題の答えを視覚的な方法で示してくれることがある。
夢に備わった創造性を育み、生産的な方向へ導くために重要なのは、夢を覚えておくことである。夢を覚えておくためには「私は夢を見る。夢の内容を思い出し、それを書き留める」と眠る前に言ってみること。このような自己暗示が夢を思い出す可能性を高めることがわかっている。目が覚めたら、夢について覚えていることを書き出す習慣を身につけることが大切である。