生成AIを武器にする
生成AIが当たり前の時代、企業はただそれを導入し、使っているというだけでは本質的な競争力を得られない。差異化に重要なのは「自社が持つデータを活用して、いかに高度な手を打っていくか」である。生成AIの学習に必要な信頼に足るデータは公の場で不足しつつある中、どのようにして独自性があり質量ともに十分なデータを獲得するのか、そのためのインフラ構築と運用を含めたデータ獲得戦略が重要になる。
他社が持たない一次情報を学習させることで生まれるアウトプットの独自性が、いずれは企業の勝敗を分ける。ポイントとなるのは、どのようなデータが必要なのかを「ユースケースを起点に」考えることだ。用途が不明なままデータだけを整備しては徒労に終わりかねない。一度獲得したデータが自動的に更新されるような仕組みづくりも必要である。
日本企業が生成AIを効果的に取り入れて成長していくために意識したいのは、BCGが提唱する「10:20:70」の法則だ。この法則はAIに関する取り組みのリソース配分を示したもので、BCGのこれまでのプロジェクト経験から導き出された「黄金比」である。
10%:AIアルゴリズム
20%:テクノロジー/IT(データ基盤)
70%:ビジネス変革(ビジネスプロセスや組織のチェンジマネジメント)
アルゴリズムやITにかける時間の倍以上をビジネス変革の実現に費やし、構築したAIの活用を推進することが重要である。生成AIの活用によって会社規模で生産性を向上させるには組織体制の見直しが欠かせず、継続的なリスキリングやトレーニングの実施も必須となる。
日本企業が生成A Iからより高い効果を引き出し持続的な成長を図るには、次の3つのポイントが重要である。
①取り組むべき「大玉案件」を決める
生成AI活用のアイデアを現場に募っても、小さな改善にしかつながらない。生成AIを導入する案件の規模が大きければ大きいほど得られるインパクトも大きい。経営層は大規模案件に踏み出す覚悟と合わせて、現場が後ろ向きにならないような責任のあり方を検討する必要がある。
②推進組織・体制と役割分担を明らかにする
縦割りではなく組織横断で取り組みをしていくことで、部門に閉じないエンドツーエンドの業務改革も可能になる。生成AIのようなテクノロジーは、ある程度の規模を前提にした方がROIを高めやすく、組織のイノベーションにつながるようなアウトプットも見出しやすい。
③投資予算の判断軸、意思決定のタイミングを定める
生成AIは技術の進化スピードが速いため、業務にどこまで適用できるのかを完全に見極めることが難しい。完全な正解が出るのを待つのではなく、「より先手を打ちたいのはどこか」という戦略的視点から絶えず判断していく胆力が求められる。
自動車の未来
BCGは現在のEVの減速は一時的なものと考えている。長期的に見ればEV普及の大きな流れは変わらない。EVの車体価格が、ガソリン車に比べ高いのは、主にバッテリーの価格が高いからだが、今後、生産量が増え、技術開発が進むことで次第に下がることが予想される。また、バッテリーの中古価値を高めるビジネスモデルの構築も期待できる。EVに使用される高性能バッテリーは、中古になっても再生可能エネルギーで発電した電気を蓄える調整電源用など幅広い活用が想定される。こうしたビジネスモデルが構築されれば、EVの普及は加速する。
BCGの予測では、2030年の世界新車販売に占めるEVの比率は39%、2035年は63%。欧州と中国が牽引し、米国がそれに続くという構図に変わりはない。
EVシフトと同様に、自動車業界の将来に大きな影響を与える重要なトレンドがある。自動車業界は、基本的には右肩上がりで成長を続けてきたが、BCGの予測ではいよいよピークアウトに向かうタイミングが来ている。これまで市場を牽引してきた先進国や中国の成長が停滞することが予想される。新興国市場の拡大は、過去の先進国や中国のような急拡大は望めない。早ければ2030年代後半あたりから成長が止まり、横ばい、あるいは下落に転じる可能性がある。
これまで自動車業界は市場の成長を前提としてきたため、「伸びる市場に投資する」ことが戦略として重要だった。しかし、これからはそう単純にはいかない。市場の成長が停滞するとともに、その中心地が大きく変わる可能性がある。
今、EVを契機にテスラや中国のBYDなど新興OEMが台頭してきている。特に中国系OEMは、生産台数が中国国内の販売台数を上回っており、市場の飽和を示している。そのため、BYDは輸出を強化するだけでなく、タイ、トルコ、インド、ブラジルなど海外での工場建設も進めている。グローバルの競争環境は既に変化し始めている。
こうした複数のトレンドを分析しながら、自社が勝つ戦略を考える上では、シナリオプランニングの視点が有効である。