黒子のモノづくり

発刊
2024年11月1日
ページ数
196ページ
読了目安
201分
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推薦者

トヨタ自動車の下請けメーカーの改善の取り組み
創業以来、トヨタ自動車の1次下請けとして、ボルトの製造を続け、業界トップクラスになったメイドー社のこれまでの歩みと品質向上への取り組みが語られている一冊。

トヨタ生産方式を導入し、いかに高品質なボルトを不良品を限りなく少なくしながら生産してきたかについて、書かれています。自動車産業のEVへのシフトが起きている中で、今後下請け企業がどのように生き残っていくべきか、自動車産業の下請けメーカーの考え方や方針がわかります。

自動車産業の黒子

自動車産業において、部品製造を請け負う多くの企業は、世界一と言えるほどのハイレベルな要求を満たすことが求められる。トヨタ車に使われる部品の内7割は、下請け企業によって作られている。トヨタ自動車の下請け企業の数は、2021年に過去最高の合計41427社となった。こうした多くの中小メーカーがしのぎを削りながら黒子として表舞台を支えている。

 

近年では、グローバル化や景気の低迷などにより下請けの分業構造が流動化してきている。親企業は高い技術力、柔軟性、優れた提案力という競争優位性を下請け企業に求め、一部の優秀な企業に発注を集約化させる傾向にある。したがって親企業にただ依存し発注を待つだけでは、生き残るのが難しくなっている。

また急速に進む自動車の電動化や自動運転技術の進化などで、自動車業界は100年に一度の大変革期を迎えている。この変革は下請け企業群にも大きく影響し、今まで納めていた部品が採用されなくなり、厳しい状況に追い込まれる会社もあるはずである。

 

トヨタ生産方式の導入

メイドーは、トヨタ自動車の創業以来、1次下請けとしてエンジンやブレーキといった重要なパーツに用いるボルトの製造を担っている。現在ではボルト業界でトップクラスのシェアを誇り、海外の生産拠点も含め、年間約200億本という膨大な量のボルトを生産している。

 

メイドーが成長を続けてこられた最大の理由は継続的な改善活動によるものであることは間違いない。業務のあらゆる点を常に見直し、より良く変えていくという文化が定着し、改善こそ仕事という価値観が根付いている。その結果、精度の高いねじを大量に作っても不良品がほぼ出ないという、世界屈指のクオリティのモノづくりが可能となり、それが競争力の源となっている。

 

メイドーの歴史の中で品質が向上していく入り口となった取り組みが、トヨタ生産方式の導入とトヨタ品質管理賞への挑戦である。この生産方式は、「自働化」と「ジャストインタイム」という基本思想から成り立っている。「働」を用いているように、機械による単純な自動化ではなく、ヒトの手が加わって初めて効率化ができるという思想である。つまり、人の作業を機械に置き換えることではなく、人の働きを機械に置き換えることである。

トヨタ自動車では不良品が出た場合、生産ラインをストップさせて徹底した原因の追究を行う。機械が異常を検知するとその内容が迅速に管理者へと通知され、すぐに原因の究明が始まる仕組みとなっている。こうした改善活動の積み重ねこそが自働化の本質であり、品質向上とロスの削減につながる。

ジャストインタイムは、生産現場の各工程で必要なものを必要な時に必要な分だけ供給する思想である。生産工程で必要な部品が不足すれば生産が停滞し、逆に必要以上の数の部品があれば管理コストという無駄が発生する。そうしたリスクを排除するのがジャストインタイムの目的である。これを実現するのにトヨタ自動車で用いられているのが「かんばん方式」であり、前工程と後工程の間で、必要な部品の数量や納入時間といった作業に必要な内容を示すカード「かんばん」がやり取りされる。

 

明確な目標が欠かせない

トヨタ生産方式の要は生産ラインの設備や仕組みではない。真に重要なのは根本に流れる、無駄を徹底してなくし、不良品を出さないという思想である。この思想が社員たちに浸透しなければ、人的ミスによるロスが発生して効率化を妨げることになる。改善の種を見つけるのも社員たちであり、そのモチベーションがなければ生産現場の細かな改善は進まない。

 

メイドーでも導入を成功させるには社員たちにトヨタ生産方式の真髄である思想を理解してもらい、その思想を通じ、心を1つにして改革を進める必要があった。全員に本気で改革に向き合ってもらうには、目標が必要であると考えた。そこで打ち出したのが、トヨタが優良下請け企業に授ける「トヨタ品質管理賞」への挑戦だった。高い目標が定まったことで社員たちは発奮し、その結果1992年に受賞することができた。

 

工場での作業はともすれば同じことの繰り返しとなりがちで、何も考えずにただこなすだけでは誰だって飽きてしまう。ただ給料をもらうためだけに目の前の作業をこなしているような状態では、当然幸せとは言えない。

単純作業が多い仕事を楽しむには、その業務を通じて得られる成功体験や喜びが必要である。それらを得るためには、明確な達成目標が欠かせない。めいどーでは、組織としての明確な達成目標を賞に、個人の達成目標を改善活動の成果に求め、社員たちがより仕事を楽しめるような環境を作ってきた。

 

メイドーの品質管理に対する取り組みの中で最も大きな転換期となったのが、「TQM(総合的品質管理)」の導入、そして、TQMにおける世界最高ランクの賞「デミング賞」への挑戦だった。