ダッシュボードの品質を決める要素
ダッシュボードとは、BIツールをはじめとするIT・SaaS製品における、データから構成されたチャートが並ぶ画面を指す。ダッシュボードの主な役割は、システムに蓄積されたデータをわかりやすく表現することで迅速かつ効率的に状況を把握し、データに基づいた意思決定を支援することである。
ダッシュボードの品質は、次の3つの要素で決まる。
①データ品質
- データ手配:適切な更新頻度で、欲しい粒度・期間のデータが利用できるか
- データ加工:使いやすいデータに集計・クレンジングできているか
②表現品質
- 個別チャート:効果的・効率的に伝わるか
- レイアウト:心地よい分量か、意味のある配置か
③要件品質
- 利用者定義:WHO(誰のためのダッシュボードか)
- 利用目的定義:WHY(どんな用途で利用するのか)
データ品質、表現品質の土台となるのは「要件品質」である。要件品質の向上には、「誰に、なぜ」の解像度を上げることが必要である。要件品質を高めることによって、データ品質、表現品質に対する期待が明確になり、結果的にダッシュボード構築の難易度を下げる効果がある。
ダッシュボードの設計
ダッシュボードを設計するには、要求やデータを正しく認識し統合していく必要がある。この過程を体系的に進めるための方法が「3×3 の設計技法」である。この技法は次の3つの主要プロセスを、それぞれ3つのステップに分けて進める。
①要件整理
Step1:オーディエンス(誰のために作るか)
ダッシュボードの利用者であるオーディエンスやその周辺の状況を整理する。どのような役職なのか、例えば誰なのか、組織図のどこに位置するのか、上下左右にはどんな人がいるのかまとめる。オーディエンス周辺の人数規模やコミュニケーションパス、サンプルユーザーなどをつかむことが重要である。
Step2:職責と打ち手(どのような打ち手があるのか)
オーディエンスは組織においてどのような職責を担っているのか、その職責の人が講じることができる打ち手は何なのかをまとめる。
Step3:シーンとBQ(どのシーンで何を問うか)
オーディエンスがダッシュボードを見るシーン、関心のある「問い」を洗い出し、整理する。BQ候補を洗い出す手法は、次の5つがある。
- オーディエンスが参加する会議から考える:会議マップ
オーディエンス周辺の関係者が実施している会議の関係を図解して整理する。 - オーディエンスが問うべきBQをテンプレートから考える:進捗管理BQテンプレート
「目標が達成できそうか?」「どこがダメ?」「なんでダメ?」「やるべきことしてる?」の型でヒアリングする。 - オーディエンスの利用想定場面の可能性を検証する:シーンバリエーション
オーディエンスがダッシュボードを閲覧するバリエーション(いつ、何を、どうやって)を整理する。 - オーディエンスの立場を想定してアイデアの幅だしを行う:生成AIの活用
- オーディエンスの行動をトレースしていく:フローチャートアプローチ
オーディエンスの行動をフローチャートに落として、その分岐をBQにしていく。
BQの候補を整理するには「9フレーム」が有効である。
縦軸:利用者(WHO)一般層、管理職層、経営層
横軸:利用用途(WHY)アドホック分析、定常レポート/目標あり、定常レポート/目標なし
BQ候補を9フレームに落とし込むにはWHOとWHYそれぞれに次のように判断する。
WHOの振り分け判断方法
- BQ候補の主要オーディエンスの職位を参考にする
- 「目標達成できそうか?」などの複数の職位に跨るBQの場合は、優先したいサンプルユーザーの枠を利用する
WHYの振り分け判断方法
- 基本原則を参考にして、迷ったらアドホック分析と考える
- アドホック分析に振り分けられたものの内、定常レポート側に移動できるものを精査する
②データ認識
Step1:粒度・属性認識
データソースの「行」に着目し、1行を固定にしている要素を特定する。次にデータソースの「列」に着目する。列数が多い場合は、属性(数値・日付・文字列)を意識して紐解く。
Step2:項目評価
複数ある項目からダッシュボード上に利用する可能性が高いものを属性別に選定する。データソースには実在しないが導き出せる項目についても目星をつける。
Step3:関係性整理
文字列型・数値型それぞれに関係性を整理する手法を用いて整理する。
③設計
Step1:シナリオ構想
オーディエンスやシーン、「問い」、打ち手を組み合わせる。ダッシュボードの統合・分割を意識しながら「問い」を研ぎ澄ましていく。
Step2:ラフスケッチ
シナリオ構想に基づいて、「問い」の答えを表現していく。何度も描き直すことになるため手書きがよい。
Step3:推敲
シナリオ構想やラフスケッチの時点で適度な推敲やレビューを行うことで、品質を高め、手戻りコストを低減する。