アートの持つ感性の力も重要
複雑で変化が激しく、不確実性が高い今日のビジネス環境において、従来の知識や論理的思考・分析のみに頼った発想や思考では限界がある。ビジネスにおいても、全体を直観的に捉えることのできる感性や、課題を独自の視点で発見し、創造的に解決する力の重要性が高まってきている。
実は、デッサンが上手くなるコツの半分は、数学的な物事の見方や論理力である。そして、もう半分が自身の本来持っている感性の力を引き出すことである。つまり、絵を描くことには、感性や感覚をつかさどる右脳と、論理をつかさどる左脳を統合した、調和のとれた能力が必要とされる。
論理力が持つ力は重要だが、これからは、アートが持つ感性の力も同じぐらいに重要である。
ビジネスの出発点は「アート」
経営学者ヘンリー・ミンツバーグは、マネジメントとは元来、「クラフト(経験)」「アート(直観)」「サイエンス(分析)」の3つの融合によるものであると述べている。
①クラフト:目に見える経験を基礎に実務性を生み出す
②アート:創造性を後押しし直観とビジョンを生み出す
③サイエンス:体系的な分析・評価を通じて秩序を生み出す
「アート」により生み出された創造性あるビジョンが「クラフト」によって実務化・再現され、「サイエンス」が分析し、効率化を進めていく。つまり、一連の活動の動力源となるのが「アート」である。
ビジネスの出発点は、アーティストが真っ白なキャンバスに作品を制作していくプロセスに近い。
アートの持つエッセンスは、ビジネス領域にも活かされている。近年は、ロジカルシンキングのみでは天井にぶつかってしまい、新たな価値創造ができなくなってしまっている。
アートの役割
アートの位置付けを整理すると以下の通りになる。
①アート:問題提起・価値の創造 × 感性
②デザイン:課題解決 × 感性
③サイエンス:問題提起・価値の創造 × ロジック
④テクノロジー:課題解決 × ロジック
テクノロジーやデザインは、短期的な課題や目標を完遂するためのものである。一方、サイエンスやアートは、長期的な目標達成やビジョンを実現するためのものである。
アートもデザインも大きなクリエイション(創造)という枠組みの中の活動と言える。デザインは課題を解決するというアウトプットがなされ、アートは自らの表現というアウトプットがなされる。
アート思考を身につけよ
ロジックと感性との微妙なバランスによって新たな価値を生み出すのが「アート」である。この感性とロジックの両輪を回していくという、アーティストたちが日々実践している思考法は、アートシンキングと呼ばれ、注目を集めるようになっている。個々人が持つ、直観力、創造力、感性をフル稼働させ、ロジックと融合させ、それが沸点に達すると、世の中にない、新たな価値が生まれる。
直観や感性は誰しもが持っている。このセンスを呼び覚まし、アートシンキングを実践していくには、「絵を観ること」「絵を描くこと」をすればいい。
頭を整理し、創造性を高めるためには、美術鑑賞が重要である。「見る」とは、目に入ったものを明確な意図や目的を持たずに受動的に捉える行為であり、「観る」とは、明確な意図や目的を持って対象を能動的に捉え、考え、思考する行為である。「観る」は考えることを同時に促し、論理をつかさどる左脳にも働きかける。絵を観ることで、感性をつかさどる感覚脳と論理をつかさどる言語脳の間を思考が往復し、新たな知覚の扉が開かれる。