何よりもまず自分自身をリードする
私たちの基本要素である「愛」と「パワー」の2つが調和して表れたものを「ジェントルパワー(やさしい力)」と呼んでいる。これは、誠実さを原動力とする精神的な強さを指し、人間の強い面と柔らかい面のバランスを培う能力である。ジェントルパワーは、人と人とのつながりよりも競争に、目的や存在よりも利益に価値を置くようになった今の世界にバランスを取り戻す力になる。ジェントルパワーは、私たちを力強く前に進みながら、心の内をしっかり見つめるように導いてくれる。
リーダーシップとは往々にして、大仰なジェスチャーや高尚な言葉、世間からの称賛もなく、誰にも知られず、気づかれもしないところに存在する。それは大抵の場合、誠実であること、品格を保つこと、そして人間が置かれた状況をよくしていくことを日々追求していく姿勢である。
他者をリードするには、何よりもまず自分自身をリードすることが必要だ。リーダーシップには、自分の信念、癖や習慣、そしてパワーとの関係性について深く理解することが求められる。つまり、自信過剰になりやすい心理パターンや、他者をコントロールしたい欲求、心のつながりを失いがちな状況などを自覚することだ。
リーダーシップは、人々が自分で力を得られるように手を貸そうとする意図のある行為とみなすことができる。こうした行為は、さらに多くの資源と機会を人々のために生み出し、それによって「ジェントルパワー」に根ざす行為がさらに促される。
ジェントルパワーのいくつもの側面の内の1つは、個人として責任を負うことから生まれる率直で思いやりのあるコミュニケーションだ。そういうコミュニケーションは、困難な状況や他者との避けられない葛藤の中から、心から理解し合う関係という価値あるものを探し出す助けになる。
自分に起きていることに責任を持つ
「シス」とは、フィンランド特有の概念で、粘り強さや内面の強さ、人間の精神の無限さに関係する。逆境に直面した時に発揮される一種の並外れた精神力を指し、どんな障害があろうと決して諦めないことを意味する。シスは文化や生き方であると同時に、極めて個人的なものでもあり、人に「石壁さえも突き破る」力を与えると言われる。シスは誠実さと密接に関連していて、フィンランド人は誰も見ていない時でも最善を尽くすことで知られている。
シスが最高の形で発揮されたものが「ジェントルパワー」である。それは、人生そのものへのバランスの取れた向き合い方であって、特に物事をどう判断するかや、人とどのように関わるか、苦しい時、平穏な時にそれぞれ自分をどう見るかに表れる。ジェントルパワーは、内面のシフトであり、人間の持つ強さと柔らかさの両極を融合させる。
シスが、やさしさの持つしなやかな強さによって、程よく調整された時に初めて、私たちは内なるパワーとのつながりを完全に確立することができる。シスは自分らしく生き、やるべきことをするためのより良い方法を探す私たちの努力を後押ししてくれるという意味で、ジェントルパワーに欠かせない。
シスで大切なのは、超人的な意志の強さではない。むしろ、自分で設定した基準をしっかりと守ることだ。シスには「内的権威」の意識が関係する。内的権威とは、どんな時でも自分を向上させようとし、自分の中にある潜在力を肯定することを指す。そして、自分の注意を引こうとするものを何であろうと受け入れる勇気を持つことだ。要するに、自分に起きていることを自分事と捉え、自分事であることに必然的に伴う責任を引き受ける姿勢である。これは、リーダーとしての健全なカリスマ性と感化力が生まれる源でもある。
内的権威は私たちの誰もが発揮できる。誰でもそれに必要なものは持っており、そのことに気づくことが第一歩となる。自分の環境を変えたいと思うなら、日々の生活の中で出会う「小さなリーダーシップ」への入口を利用して、毎日意識的に内面的な成長を目指して行動するだけでいい。
自分を率直に見つめ直すことがリーダーシップ探求につながる
ジェントルパワーを培うための、誰にでも当てはまる画一的な方法はない。もっと「強さ」の側に寄っていく必要がある人もいれば、思いやりや柔らかさ、やさしさを培うことに力を入れた方がいい人もいる。
ジェントルパワーを培うためには、パワーが自分にとって何を意味するか、それに対してどんな抵抗感があるか、過去に自分のパワーをどう乱用したことがあるかを理解することが大切だ。自分自身にパワーを与える方法を学ぶだけでなく、自分がパワーを手放す傾向があるのはどのような場面かを知る必要がある。
ジェントルパワーが導くのは、自分を率直に見つめ直す、実りのあるリーダーシップ探求の旅である。