演繹革命 日本企業を根底から変えるシリコンバレー式思考法

発刊
2024年9月30日
ページ数
352ページ
読了目安
370分
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推薦者

失われた30年の本質的な理由
日本企業がイノベーションを起こすことができない根本的な原因を解説し、どのようにすればイノベーションを起こす組織に変えられるのかを紹介している一冊。

シリコンバレーを拠点にベンチャーキャピタリストとして活動する著者が、イノベーションを起こすシリコンバレーの考え方と日本企業の考え方の違いを解説しています。特に経済的にインパクトが大きい大企業がどのように新規事業を進めていけばいいのかに重点をおいて書かれています。

日本企業が抱えるイノベーターのジレンマ

戦後の日本産業の興隆には「製品・サービスに関わる人たち全員が団結して、一生懸命真面目に取り組む」という大きく共通する1つの流儀があった。この流儀を実行しようとすると、「計画通り」に「みんなが同じ方向」を向いて、「オペレーション」を真面目に実行し、細部に至るまで分析して「地道に改善」に努めるということになる。これは戦後の復興後に驚異的な成長を遂げる強みになったが、「失われた30年」においては、企業変革や事業転換を妨げるイノベーターのジレンマに陥る原因となった。

 

デジタル誕生と以後では「全てがつながった」ことが一番大きな変化である。これまでは、産業ごとでばらばらに製品を作って売っていた。それがデジタル化によって、作った製品が他の製品とソフトウェアや通信技術でつながり、この「つながり」に新たなビジネスチャンスが生まれるようになった。

ビジネス的にも、トライ・アンド・エラーがしやすくなり、挑戦するにも失敗するにもコストが低くなった。また、デジタルで人々がつながっているので、製品・サービスに対するお客さんの反応も、リアルタイムに吸い上げることができる。このようにビジネスで上手くいくやり方自体も、根本から変わった。

「あらゆるサービスをつなげる」「小さな挑戦を繰り返す」「デジタルで意見を吸い上げる」などの新しいやり方には、日本産業がこれまでやってきた流儀が足枷となり、なかなか踏み切れないジレンマがある。

 

帰納法と演繹法

こうしたジレンマに対応できない根本的な原因は、「帰納」と「演繹」という1つの理論で説明がつく。

 

①帰納法

帰納法は、個別の出来事を集め、そこから共通点を見出す形で一般的な法則や規則性を見出す。つまり、帰納法では既に分かっていることや起こっていることが思考のベースとなる。

 

②演繹法

既に一般的に知られている理論や法則、前提から仮説を検証し、結論を導き出す。演繹法では大前提に揺るぎない一般論を用いることが重要になる。

 

帰納法が個別事例から一般原則を導き出すのに対して、演繹法は一般原則や理論から個別の結論を出す。つまり、帰納法が抽象度を上げていく流れなのに対して、演繹法は抽象度を下げていく試みである。

 

日本が大きなジレンマに陥った根本の原因は、戦後の経済成長期に根付いてきた考え方のベースが「帰納思考」である一方、現在の変化の時代に世界の経済発展のベースとなっているのが「演繹思考」であることにある。両者では最初からアプローチが全く異なる。帰納思考では、過去の成功例を前例として調べ上げ、その集大成として事業案をまとめていく。一方、演繹思考では、まずコンセプトを出発点として仮説を生むことから入る。

 

しかし、演繹思考を苦手とする日本人が多い。それは「過去の事例をお手本にして良いところを取り入れ、さらに改善する」という帰納思考がしっかり身についているからである。帰納思考では、既存の事業の延長線上で良いか悪いかを判断するので、新しいことがなかなかスタートできない。帰納思考も演繹思考もそれぞれ、利点と欠点がある。大事なのは、その違いを知り、意識することである。

 

演繹思考の組織をつくる

日本企業で演繹思考の経営を上手く進めるには、「帰納思考による企業運営の利点と実績を認めながら、演繹思考の取り組みをする」態度が大切である。そして、帰納思考の既存組織とは分けて、演繹思考で経営される別の箱を作ることが有効である。

 

①経営トップの意識を変える

経営トップは帰納思考がすべてではなく、他の思考体系の世界があるようだ、と思えることが演繹思考の取り組みの第一歩となる。帰納思考と演繹思考というお互いに180度考え方の違う取り組みを両方進めることができるのは、誰の忖度もする必要がない経営トップにしかできない。

 

②両利きの個人を見つける、育てる

既存組織とうまく関係が持てるような帰納思考の能力があり、かつ演繹思考で動く箱をつくる「両利き」の人材を見つけることが必要である。例えば、既存組織での仕事が目立っていて、どんな上司にでも反論したり、逆提案をしたりする尖った人材が適任である可能性が高い。

 

③演繹思考の箱をつくる

演繹思考で新規事業創造を進める箱は、試行錯誤を繰り返すことを予想しているので、小さく始める。帰納思考の価値観で運営して、リスク回避のための議論に時間を割くことを避ける。

 

④未来へ向けて、帰納組織を変革する

帰納組織に対して演繹思考を移植していく。演繹組織と帰納組織の人事は水と油のような違いがある中で、演繹組織の人事システムをどう運営するかは、現時点では明確な答えはない。

 

⑤箱の成果を検証し、古くなった帰納組織を徐々に吸収していく

演繹思考の組織でも動けるようなオープンマインドを持った人材が帰納思考の既存事業から出てくれば、企業の成長は続く。