インサイト中心の成長戦略 上場企業創業者から学ぶ事業創出の実践論

発刊
2024年9月19日
ページ数
336ページ
読了目安
545分
推薦ポイント 4P
Amazonで購入する

Amazonで購入する

新規事業を立ち上げ成功させるための実践論
事業を成功させた起業家たちへのインタビューをもとに、新規事業を立ち上げるためのプロセスがまとめられている一冊。
起業家たちが、どのように新しい事業を着想し、立ち上げたのかが整理されており、新規事業を創出するために必要なことを理解することができます。事業の競争優位性を確立するために重要な差別化要因である「インサイト」に着目されており、起業家たちがどのような視点からインサイトを発見したのかは非常に参考になります。
特に大企業の新規事業担当者や、起業を考えている人にとって、役立つ内容になっています。

事業領域の選定

新領域へ展開するには、常に幅広い情報網から正確かつ鮮度の良い情報を仕入れ続け、インサイトの発見に努める必要がある。実業家たちは次の4つのルートから事業領域の選定を開始している。

 

①儲かっている先行者の情報から始める

儲かっている事例を聞き、自社でも何からの類似事業に取り組めないかと考える。先行者の情報収集を重視するのは、自社でゼロからサービスを考え、実験し、機能する商品を発見することは非常にコストが高く、不確実である。実業家たちは「あの会社は儲かっているが、欠点もたくさんあり、重要な要素であるこれができていない」と考えて参入戦略を策定する。

 

②情熱を持てるものから始める

長時間情熱的にやり抜けることが持続的な優位性の源泉となる。細部まで情熱とこだわりを持ち続けられるか否かが業績を大きく左右する。但し、情熱は事業の成功に必要条件であるが、必要十分条件ではない。

 

③構造変化から始める

巨大市場を発見しても、変化がなければ参入する隙間はない。隙間は顧客の需要とサービスを提供する企業の間に生まれる。変化が大きい領域では参入に値する隙間が発生しやすい。構造変化による一点の隙間を発見し、突破した企業が事業領域を拡大する。

 

④実務を通じたインサイトから始める

事業を通じて獲得したインサイトから新領域を発見することが新領域進出の基本である。実務に取り組む過程で気づいたインサイト起点で創業している例は非常に多い。この方法で参入する場合、インサイトを発見した後に「この領域はどのような環境なのか」とマクロ環境を把握する。

 

事業領域の選定において特に重要なのは、「自社の能力を正確に把握すること」である。自社の能力は強烈な制約条件となり、実行可能性のある事業は限定されたものとなる。現在の自社が持つ能力を前提に事業領域を考えた場合、選択できる進出領域はそれほど多くない。

新たな能力の獲得には時間とコストが必要な上、大きな不確実性を伴う。自社が保有する能力と進出したい領域との適切な距離を把握し、必要な時間と投資を認識しておく必要がある。

 

インサイトの発見

戦略の中核はインサイトである。多くの背景知識を持った状態で「あの商品が売れている」「顧客はあの商品に対して大きな不満を持っている」という現象を解釈すると「このようにすれば勝てるのではないか」というインサイトを得ることができる。

 

インサイトは、断片的な現象に対して、それを見る人の経験や思い込みをつなぎ合わせて発見される。ロジカルシンキングだけでは到達できず、その発見は偶発性に支配される。しかし、インサイト発見能力は鍛錬可能である。最も良い鍛錬は自分自身で企画・開発・販売を行うことであるが、より簡単な方法は、他の商品やサービスが、なぜ競合に対して優位に立てたのかをインサイトの観点から記述する方法である。

 

新規事業者にとって、インサイトは重要な手掛かりとなり、成功や失敗の事例から学ぶことで自社の強みを活かして一点突破を図ることが可能である。また、成功するためにはマーケティング、営業、製品企画、マネジメント、製造・サービスといった重要な能力に集中投資する必要があり、これらの能力が事業の成功を左右する。

 

初期的なインサイトの発見と領域選定は混ざり合ったプロセスになる。インサイト発見と領域選定はプロセスがきれいに分けれれることはあまりない。インサイトはないが領域選定をしてしまうトップダウン型では明確な参入戦略を描けないリスクが高くなる。インサイトがない状態ではいくら大量の情報を資料に盛り込んで戦略を作ろうとしても、実行可能性のある戦略はできない。

 

事業立ち上げ

事業立ち上げ段階においては、すでに軌道に乗っている事業の通常業務とは異なる機動的な動き方・心構えを必要とする。この段階をくぐり抜けるためには、常に顧客・先行者から情報を取得し、機動的な戦略修正を繰り返すことが必要である。その結果、再現性高く売れる状態に到達できる。

 

実業家たちは、戦略を具体化していくプロセスと、事業立ち上げをほぼ同時に進めている。調査段階で入手できる情報は限られる。そのため、具体化を進めるには業界内のプレイヤーや顧客に対してサービス案を提示し、フィードバックを得ながら軌道修正を続ける必要がある。多くの施策は事業立ち上げ後に入手した情報を活用し立案している。

 

事業立ち上げ段階において事業のリーダーが前方にいることは必須である。前方に立ち続け、情報取得・戦略修正・実行を高速で繰り返すことが要求される。