STATUS AND CULTURE 文化をかたちづくる〈ステイタス〉の力学 感性・慣習・流行はいかに生まれるか?

発刊
2024年8月1日
ページ数
544ページ
読了目安
930分
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推薦者

流行やカルチャーが生み出されるメカニズムとは
アートやファッション、音楽などの文化が創り出される社会のメカニズムを解説している一冊。
人間の根源的欲求である「ステイタス」を求める行動にこそが、現代社会において文化を創造する源泉だとし、なぜ流行やカルチャーが生み出されるのか、そしてインターネットによって、それがどのように変化しつつあるのかなど、世の中の仕組みのことが書かれています。
マクロな視点で、文化というものを理解することができます。

ステイタスは人間の基本欲求である

ステイタスとは「社会における各個人の重要度を示す非公式な指標」である。すべての社会集団にステイタスの階層があり、有名人や実力者、人望のある人々がその頂点に立つ。大多数は中間層に位置し、不遇で貧しい人々が底辺をなしている。

各個人の日々の活動は、ステイタスの階層内におけるそれぞれの位置に応じて規定される。ステイタスが高ければ、事は上手く運び、いい扱いを受け、結構幸せだ。社会的に高い地位を得ると長い目で見た幸福度に影響を及ぼし、行動が刺激され、それ自体が目標となることが実証されている。従って、ステイタスは人間の根源的な欲求とみなされている。

 

現代を生きる個人は、自らのステイタスを決定する上で過去以上に大きな裁量権を与えられている。富、人脈、教育、経歴、名声といった重要なステイタスの基準に優れる人には高いステイタスが待っている。一方、取り残された人々は各自の貢献を高く評価してくれる小規模な集団内で別の敬意の源を探し求めることができる。

 

ステイタスを獲得するための慣習

ステイタスを獲得するためには、集団規範への服従という前提条件が存在する。あらゆるステイタス集団及び階層は、構成員に特定の行動を取ることを求める。社会的承認を得るには集団の目標に貢献するだけでなく、その集団が求める恣意的な慣習に従うことも必要である。

慣習は文化という化学反応における分子であり、文化全体を構成する集団活動の個々の単位でもある。そして、3つの重要な点で人間に力を及ぼす。

  1. 人間の行動を制御する
  2. 習慣として内面化される
  3. 世界の捉え方を変える

 

私たちは慣習を守れば社会的承認を得るし、破れば社会的非難を受ける。この両方が自身のステイタスの位置に明確な影響を及ぼす。すべての慣習は、それに従うことで得られるステイタスを反映した、差異的な「ステイタス価値」を有する。高ステイタス集団のみが従う慣習には高いステイタス価値があり、ステイタスの低い集団と結びついた慣習のそれは弱い。

 

普通のステイタスは一定の慣習に従わなければ得られない。それはつまり仲間たちの振る舞いを真似る一方で、低ステイタス集団や敵対者たちとは差異化を図るということだ。同時に、より高いステイタスを得るには属しているステイタス層との差別化を図り、上層の行動を真似る必要がある。即ち、希少な才能と貴重な資産を使い、他者たちの上に立つことが必要とされる。何より、より高いステイタスには「個人の差異化」が必要となる。

 

ステイタスを主張する慣習が文化となる

シグナリングとは、個体が他の個体に選ばれるために特定のポイントを示して、自分の質の高さを伝えることを意味する。私たちは特定の信号を伝達して自分のステイタスを他者に主張し、他者はそのシグナルを解釈してステイタスを評価する。

より高いステイタスを得るためには、より高いステイタス価値を有する特定の象徴や行動を取り入れる必要がある。高い社会的地位を最も確実に示す手段は、高級車や宝飾品といった特定の財を見せびらかしたり、ステイタス価値の高い行動を取ったりすることだ。

威信や名声といった高いステイタスが備わっていることを示す場合、英語では「キャッシェ」という単語を用いる。この言葉は中世フランスの王璽が押された封印状に由来する。ある慣習がキャッシェを保ち続けるには、それが高ステイタス集団のみのものでなければならない。エリート層は模倣を阻むシグナリングコストが高い慣習を好み、コストの高い選択肢にはキャッシェが付与される。

 

こうして慣習化した行動が他人に対してステイタスの主張をする必要性から、解釈されるシンボルに変わる。つまり、文化とは基本的にコミュニケーション活動であり、私たちのやることなすこと全てが社会的地位を示すシンボルとなる。

 

ステイタスを求める闘争が多様な文化を創造する

サブカルチャーは、資本や主流社会の美徳以外のステータスの信念を中心に据えた階層「二次的ステイタス集団」を形成する。主流のカルチャーからはみ出した低級なサブカルチャーでは主流の価値観を否定すると恩恵を得られることから、資本を持たない人々が格好の居場所としている。

サブカルチャー集団は、ペルソナ作りの前衛集団であり、ステイタスの差異化を効果的に図る手段を最初に採用した集団であった。こうした計算づくの創造性を発揮する人々が芸術家たちである。彼らは、メインストリーム以外の場所でステイタスの源泉を掘り当て、メインストリームの慣習を否定し、大袈裟に見せるためにとんでもない行動に熱中する。

 

ニューマネーは簡単に解釈可能なシグナルを使う。それとは対照的に経済資本に限りがある集団は複雑なシンボルを使った慣習に頼って差異化しなければならない。つまり、ステイタスの動機づけは、芸術、サブカルチャーといった多くの文化の創造に駆り立てる。ここに位置する集団が必要とする差異化は、単に高価なものだけでなく、新しい発想や感性、スタイル、そして工芸品を作り出していく。