マネジャーを取り巻く変化
現在の職場において、マネジャー1人のリーダーシップでは、職場やチームを束ねていくのは難しい。その背景には、マネジャーを取り巻く5つの変化がある。
- 複雑化:前例踏襲ではもう対応できない
- 少数化:加速度的に進行している人手不足
- 多様化:中途採用、外国人、女性など多様なバックグラウンドを持つ社員の増加
- 分散化:テレワークの普及によるバラバラの場所での協働
- 多忙化:異なるチームや部署の兼務の増加
こうした状況にもかかわらず、「リーダーシップは、マネジャーなどの役職に就く公式なリーダーが1人で発揮するもの」という固定観念が変わらず人々に根付いており、マネジャーの負荷は増す一方である。これからは、マネジャーのリーダーシップの発揮の仕方をシフトし、チームのあり方をシフトさせていく必要がある。
シェアド・リーダーシップとは
リーダーシップとは「集団の共通目標の達成に向けて発揮される影響力のプロセス」である。リーダーシップの発揮プロセスには、役職の有無にかかわらず、誰もが関わることができる。
シェアド・リーダーシップとは「1人1人がリーダーシップを発揮し、その影響力が複数のチームメンバーによって担われている創発的なチームの状態」を指す。メンバー全員がそれぞれの専門性やスキルなどの強みを活かしてリーダーシップを発揮し、ときにお互いをカバーし合いながら、1つの目標に向かって進んでいく。
シェアド・リーダーシップなチームを実現する上で一番重要なことは、マネジャー自身が今まで持っていたマネジャー像のイメージを一旦手放し、チーム運営の方法や自分の行動を「シフトする」と決意することである。シェアド・リーダーシップなチームは「気づいていたら自然と実現していた」ということはあり得ない。まずマネジャーが「自分のリーダーシップのあり方をシフトする」と決意することが全ての起点となる。
リーダーシップをシフトする5つのステップ
シェアド・リーダーシップなチームをつくる上で、マネジャーからの働きかけは、重要な役割を果たす。マネジャーは、次の5つのシフトを意識することで、チームをシェアド・リーダーシップな全員活躍チームへとシフトさせていくことができる。
STEP1:イメトレしてはじめる
チーム活動が始まる前に次の3つを内省し、少し未来をイメージトレーニングしてからチーム活動を始める。
- 自身が担当しているチームの事業・仕事がどうありたいか
- メンバーにはどう活躍して欲しいか
- 自分自身はどうありたいか
マネジャーとして担ってきた仕事の内、どの分野は誰にリーダーシップを期待し、どの分野では自身がリーダーシップを発揮していくかを事前に整理しておく。
STEP2:安心安全をつくる
心理的安全性の高い場をつくることは、全員活躍チームをつくる上では重要である。なぜなら、メンバーが上司やチームの誰かを恐れ、不安を抱くような場では、メンバーがアイデアや意見、質問、懸念を率直に述べることも、リーダーシップを発揮して物事を推進していくこともできないからである。
- 「チームで大事にしたいこと」は最初に明言する
- 全員が発言できる機会をつくる
- 1on1で想いを引き出す
STEP3:ともに方針を描く
すべてのメンバーがコミットできる方針を描くためには、メンバーと「ともに方針を描く」プロセスを組み込むことが必要である。自ら、方針を描くことに参加した感覚が持てるものだけが真摯に実行される可能性が高まるからである。メンバーが当事者意識を持って、本気で仕事をするためには、自分たちの意見が反映され、自分たちの意見をもとに方針がブラッシュアップされるプロセスが必要である。
- 仮案:方針の仮案は修正を前提につくる
- 対話:対話を重ねて共通認識のレベルを高める
- 整理:対話で得た情報を放置しない
- 決定:決定の経緯と根拠を丁寧に説明する
STEP4:全員を主役化する
「主役」「脇役」が固定化すると、「主役」となるエースメンバーの代替はますますきかなくなっていく。こうした事態を避けるために行うのが、それぞれのメンバーが強みを持つ部分でリーダーシップを発揮できるような仕事のアサインと働きかけを行い、全員を主役化することである。
- 全員の強みを活かすアサインをする
- アサインする仕事の意義を言葉を尽くして伝える
- 背中を押して表舞台に上げる
- 活動を演出する
- スポットライトを当てる
STEP5:境界を揺さぶる
チーム内のあらゆる「境界を揺さぶる」ことで、チーム内での連携や相互刺激を促進する働きかけをする。
- 「チーム学習」で「専門性の境界」を揺さぶる
- 「知と活動の見える化」で「担当の境界」を揺さぶる
- 「見える化→手順化→手順崩し」で「手順の境界」を揺さぶる
- 「チーム・リフレクション」で「行動の境界」を揺さぶる
- 「他流試合」で「チームの境界」を揺さぶる