JALの再建
2010年、経営不振と債務超過を理由として日本航空は会社更生法の適用を申請し経営破綻した。総額2兆3221億円という戦後最大の負債を抱えての倒産であった。そして、企業再生支援機構の支援のもと再建がスタートした。
その日本航空は、1年後には、過去最高の1800億円を、2年後には2000億円を超える営業利益を上げ、世界で最も高収益な航空会社の1つとなり、2012年に再上場を果たした。
この奇跡的な再建は、日本航空の全社員の力によってなされた。それを可能としたのは、稲盛さんという稀代の名経営者がいたからであり、稲盛さんの経営哲学、人生哲学が全社員に浸透し、彼らの考え方、心、行動を変えたからである。
稲盛経営哲学
稲盛さんの経営哲学の素晴らしさの1つは、私たちの人生を「成功方程式」という極めて単純化された数式で、どうすればいい仕事ができるようになれるのか、また、どうすれば運命さえ好転させることができるのかを示していることである。
「人生・仕事の結果 = 考え方 × 熱意 × 能力」
熱意:0〜100点
能力:0〜100点
考え方:−100〜100点
成功方程式はかけ算になっているが、その理由は、高い「能力」の持ち主が、「熱意」を持って、誰にも負けない努力を重ねたとしても、その人がもし少しでもマイナスの「考え方」を持っていたとしたら、人生の結果はマイナスになってしまうからである。
どのような「考え方」が+100点なのか。それを稲盛さんは「人間として正しい考え方」だと表現されている。例えば「嘘をつくな」「人のために役立ちなさい」「一生懸命努力しなさい」「弱いものをいじめるな」という初歩的な道徳律のようなものだと説明されている。
成功方程式は、組織、企業においても適用できる。まずは経営トップが、人間として正しい「考え方」と燃えるような「熱意」、事業家としての「能力」を持たなくてはならない。そして、企業とは社員の意識の集合体でしかないので、経営トップは社員の「考え方」のレベルを上げることができなくてはならない。
そのためには、自分の「考え方」をどのような時でも揺らぐことのない哲学にまで高め、その自分の経営哲学を自分の言葉で社員に語りかけ、浸透させなくてはならない。すべての社員が、トップの「考え方」に共鳴し、それを学びたいと思うようになれば、組織としての「考え方」は高まる。
経営トップは社員の「熱意」を高めることもできなければならない。必ず成功できるという戦略を立て、それを実践して見せる。その実績が社員からの信頼を得、社員の「熱意」を高める。
特に社員の「熱意」を高めるためには、社員の深層心理までがわかるような洞察力を身につけ、社員の立場になって考えることが必要となる。その上で、苦労をかける社員への思いやり、愛情を忘れてはならない。それが社員の心に火をつけ、組織の基礎体温を上げ、結果として「熱意」を高めるからである。
JALの意識改革
再建を成功させるためには、再建計画を確実に実行できるリーダーの育成が急務だった。当時、JALの幹部と話をしても、民間企業を経営しているという意識を持っている人はいなかった。まるで評論家のようにJALの倒産を解説する幹部もいた。
まずは幹部社員にリーダー教育を実施した。現場の社員をマニュアル至上主義から解放すると同時に、JAL全体で互いに助け合えるような一体感を醸成する必要があった。そこで、稲盛さんの経営哲学を理解してもらい、全社員で共有して、一体感を高めた。